ギヴ・アンド・ミステイク
「僕の歳を超えたなら、考えてやらなくはない」
そう言った、あのときの君の横顔を思い出している。
あの時の君は二十で、私は十八。そして昨日、私だけが二十一を迎えた。その三年のうちに美しいものをいくつも見てきたけれど、あの横顔を超えるようなものはいまだに見ていない。
ひび割れたアスファルトの上を歩く。傘と地面の隙間を縫うように、風をたすけにして、雨粒が私にまとわりつく。目の前に広がる水溜まりをはねる光の粒が綺麗で、そればかり見て歩いている。歩きながら、君のことを考えている。
結局、君のあの日の言葉の意図が分からないままでいる。あれは断りの文句なのか、それとも、私を待ってくれていたのか。どうあれ、その後すぐに骨だけになった君の本心なんて、どうせいくら考えても推測の域は出ない。出ないけれど、答えが欲しくて、今日もまた無駄な時間を過ごしてしまった。
分かったからどうなのだ、という話である。本当に私を想っていたとして、地獄の果てまで追いかけるつもりもない。相手にしたくなくてうやむやにしていたとして、「そりゃそうだ」以外の感想も出てこないだろう。でも、はっきりしないのは腹立たしい。まったくもって論理的ではないが、きっと誰にだって分かってもらえる気持ちだと思う。
そんなことを考えていたら、曲がる道を間違えた。引き返す折、手ごろな石を蹴っ飛ばす。水面を揺らして、やがて動かなくなる。雨は相変わらず止まない。立ち止まっていては風邪を引いてしまうから、止まることなく家を目指してなおも歩く。
まったく、こんなふうに引きずるのならば、いっそ嫌いになってしまいたいのに。恨み言も言えないまま死なれたんじゃあ、この心はどこに放ってしまえばいいんだろうか。いいもんね、私だって最近言い寄られてる男がいるんだから。そうなったら、すぐにでも忘れてやる。絶対に。
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