孤独だけが積っている

 慌ただしく蠢く人の波をかき分けて、すこしでも空いている方にと進んでいたら、点字ブロックの外側へと出た。綱渡りのようにバランスを取って歩きながら、ふと、今このまま左に重心がずれて、落ちて、そのまま肉塊に成り果ててしまってとて、さほど未練はないなと思った。人生とは実に空虚である。


 煌びやかに着飾った無機物の下で、やせ細った木々が春を夢見て眠っている。その横を歩く僕の目は死んでいる。別に不満があるわけではない。衣食住には困らず、やりたいことも阻害されず、最低限の仕事をしながら必要十分な生活を送っている。

 そう、何をやるにも困らない。やりたいことはあらかたやり尽くしてしまった。その割に、死んでもやり遂げたい夢がない。馬鹿みたいに大きくて荒唐無稽な夢を語ることすら馬鹿馬鹿しいと嘲る、そんな汚い大人に成り下がってしまった。では守りたいものは? ない。欲しいものは? 喉から手が出るほどのものは見当たらない。絶対に手に入らないものを夢見ないよう自衛のために削ぎ落としたら、人生が芯を失ってしまった。このままではきっと、遠くない未来に私の身体はバランスを失ってレールの上へと落ちて行ってしまうだろう。


 はたと立ち止まった。初雪である。そういえば聖夜はすぐそこだ。どうだろう、生きる理由でもサンタクロースにお願いしてみようか。まあ、仮に得たとしてどうなるという話ではあるが。なんて戯言を脳内で垂れ流しているうちに鉄の塊が私を最寄駅まで運んで去っていった。人混みに流されながら、ぼんやりと歩いている私を見る人は誰もいない。

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