第5話

さぁ仕事仕事、とまだダメージの残る足で急いでいたら、珍しい光景を見てしまった。

小さな体躯のおじさんがちょこんと路地に座りでいた。

見るからに顔色が悪い、具合悪そう。

すごく珍しい。

だっておじさんはドワーフだったから。

小柄でずんぐりむっくり体型に髪と髭が一体化したモジャモジャなのは、ドワーフ特有なので間違えようがない。

珍しすぎる。

意気消沈なドワーフなんて。

元気な姿しか見た事がないから、ドワーフってのは病気知らずなんだとばかり思ってた。


「ちょっとおっちゃん、大丈夫かよ」


昼間っからこういうあぶれ者、みたいなのが居ないのがこの異世界のすごいとこだと思っていた。

しかもドワーフは日本に居た頃のイメージ通り、手先が器用でなんでも作れる食いあぶれない種族だ。

稼いだ金は酒に注ぎ込む、酒の為に働く、という種族だ。


「酒…酒が飲みたい…」


声を掛けた俺に対して、ドワーフのおじさんが弱々しくそう言った。

のんべぇだ。

のんべぇさんか。

ただの飲兵衛だったのか。

ドワーフは年中酒飲みだけれども。

酔い潰れは、夜にしかみたことないけれども。

いや、ドワーフは年中酒飲みか?

知り合いに居ないからわかんないな。

なんにせよ、本当に困ったひとではなさそうでよかった。

多分俺のほうが困ったひとだろう。

胃が痛い。


「…じゃあ、これどうぞ」


「!いいのか!」


「はいどうぞ」


酒ぇ、酒ぇ、とまだ言うおじさんに、俺はついこの間購入した日本酒をあげることにした。

本当はハヤトと飲むつもりで予約してやっと手に入れた品。

…別れた今、必要なくなった。

結構な値段したけど、もういいんだ。

ひとりで飲んでも美味しくないに決まってる。

そんな訳でアイテムボックスから酒瓶とコップと、ついでにおつまみもセットにしておじさんに渡した。


「おう…こりゃあ……サイコーだぜっ」


早速コップに注いで一口飲んだおじさんが、にこにこーって笑ってくれた。


「良かったね」


「ありがとな坊主。お礼にこいつをくれてやるよ」


「ありがとうおじさん……これスコップと虫取り網が合体してるんだけど」


「おう」


「…え、おうって…何処に需要あるんだ、これ」


「坊主にはぴったりの道具だろ」


そう言われ、渡された武器、いや道具を眺める。

棒の先端、丸い輪には網。

その逆方向には使い易そうなスコップ。

まあ、確かに、採取専門の俺には必要な道具だな。


「おじさんありが、とう」


しげしげ眺めてから、使い勝手が良さそうすぎる事に気付き、改めてお礼を言おうと顔を上げたら、おじさんはそこに居なかった。

…えーと。

えと?

妖精の気配。

化かされていた、気分。

ドワーフっぽいおじさんだったけど実は妖精だった?

ドワーフって妖精の一種なんだっけ?

段々分からなくなってきたので、俺は考えるのを辞めることにした。

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