大器晩成うすのろ彼氏【改訂版】

狐照

第1話

とんまウスノロうどの大木。

それが俺の二つ名だ。

まぁ本当のことだし、反論の余地はない。

でも長くない?

嘲るにしてももう少しさぁ。


俺はどうも素早く動くってのができない。

昔っから鈍くさいどんくさいって言われていた。

足も遅い。

動作も遅い。

苛々されることが多い。

足の遅さはしょうがないとしても、体が大きいから慎重に動いているだけなんだけど、それがもったもった見えるそうだ。

だからこっちに来ても言われてしまうのは、しょうがないって思っていた。

でも俺にだって得意なことはある訳で、俺はそれで役立ってるって、そう思ってたんだ。

ちゃんと貢献出来ている。

そう思ってた。

そう、思っていた。




俺には最高の恋人がいた。

めちゃくちゃ最高の。

とびっきり美人…いや美形…イケメンの。

大好きな彼氏ってやつだ。


幼馴染のイケメンに、思春期真っただ中、誰にも盗られたくないっていう理由で俺は告白した。

幼馴染。

しかも同性。

半ば玉砕覚悟だった。

気持ち悪がられることも、避けられることも、嫌われる未来も想定してた。

でも告白しとかないと後悔するって思ったんだ。


「好きなんだ!恋人になって欲しいんだ!」


そう言った俺の告白に、


ハヤトは「うん」って頷いてくれた。

うんって。

あんまり表情を変えないハヤト。

そんなハヤトが頬をピンクに染めて。

俺の手をとって。

微笑んで。

うん、って。


はじめてみたその笑顔は、今も俺の脳裏に焼き付いている。








「…はぁ…手持ち少な…やばいよなぁ…」


とってもらえた手で開いた財布の中身に、泣きそうになる。

めっちゃ少ない。

何故ならこの間使ったから。

薄い財布をポーチに仕舞う。

叩いたら増えないかな。

増えないよ。


「はぁ…」


溜息吐いたところでお金は増えない。

働かないとお金は稼げない。

そこはもう大人だ。

気を取り直して、俺はひとり冒険者ギルドの扉を開けた。


少し遅い時間なので中の人はまばらだ。

あえて遅く来た甲斐があったな。

いや、俺のようなとんまウスノロうどの大木に絡む暇なんてないんだろうけど、気分の問題なので。

会いたくないひと多数居るので。


あいつら居ないよなーと警戒しつつ、今日は何をしようかなとクエストボードを確認する。

その隅に、俺が元居たパーティが二つも昇格したってお知らせが貼ってあった。

被害妄想に囚われそうだ。

俺はなんてことないって装いながら、無難な薬草採取のクエストを発行してもらい、足早にギルドを後にした。

心無しか職員の人の視線が優しかったのは、気のせいだ。

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