第14話 出来損ないの魔女と可愛いお荷物

魔法が使える、と聞くと。


とても便利に感じるのでは?と思う。



…私は、そうは、思わない。





魔法は、人を、狂わせる。 









デート遠足から一週間経ったある日の夜。


私は部屋で漫画を読んでいた。


同じ部屋にいる、ユズキはというと…



「はやくぅ…///はやく…いれてぇ///」









「ねぇ、この女優嫌いなんだけどぉ」


『おい私のスマホで見るなユズキ』



即座に彼女が持っているマイスマートフォンを取り上げる。見るにしても音を消せ。


…てか私ので見るな。


…てかてかなんで私のパスワード知ってるの!?


「ちぇっ」


『…え?どうやって見たの?』


「それはもう検索してさぁ」



終わってる。検索履歴残るやつやん。


「カナはそーいう動画見ないのぉ?…あ、漫画派?」


『殺すぞ』


リアルなシチュだとあんまり…いやそういう話じゃなくて。


『はい、正座』


「はい…」




『最近ユズキ大丈夫?なんか淫乱すぎん?』


「言おうかぁ、迷ってるんだけどさぁ」


『何?結婚に焦ってるとか?』


「違うわい!…発情期?って言うのかな、それがあるみたいで」


『ふぅん…』




かれこれ長い間(と言ってもだいぶ短いが)一緒にこいつもいるからわかる。




こいつ…嘘ついてるな?



「いや嘘ついてないからぁ!やめて!?そういう疑いの眼差し!私を信じてよぉ!」


『はぁ』


「…?」


『まぁ、一回ヤッたなら、変わらないか』



だいぶ危ない考えだと、我ながら笑う。



「…ふふふ、今夜は寝かさないよ?」


『明日学校だから早くしてね、はよ寝たいんだ』


「冷たくない?」


服は私が脱がすから、と積極的に私の方に詰め寄って、舐るように服を脱がす。…この淫獣が。



そんなこんなで記憶もなく、次の日へ。










『どこだっけ…?図書室』



今日は図書室が空いているらしく、カホから「図書委員にもなったので私の働きっぷりを見てください!」と自信満々に。…とのことなので、放課後に立ち寄る。



委員会って、兼部みたいなことできるんだ…

階段を上り、廊下に出た、その時。



「あぁ!」


『え?何?』


私を指差すや否や、「あぁ!」と声を出す。

私の勘が叫んでいる。これは、変人だ!


「ま、魔物ぉ!誰かわからないけど、キミ!いま解放するからね!?」


『え?』


「まっ、魔物?私のこと?」


カイはもしや魔物って、自分なのでは?と私に問いかけるが、私も知ったこっちゃない。


「その通りだ!さぁ今すぐその人間を解放しろ!じゃないと…実力行使だ」



途端、謎すぎる彼女の腕の先に謎のゲートが形成される。そのゲートに腕を突っ込み、何かを引っ張る。


腕と一緒に出てきたのは、杖。


すごいプリティーでキュアキュアな変身シーンみたいだ。


「ははは!ひとたまりもない一撃、喰らわせてやる!」


『いやこいつ、魔物じゃなくて!』


「…クソ、なんてむごいことを!ヒトを催眠術にかけて操るなんて!」




「最期に言いたいことはあるかぁ!」と大声を上げこちらに何やらデカめの魔法を一発放つ様子。周りの明暗は一転し、さも杖の先からどんどん大きくなっていく魔法のボールは周りの光を吸収しているようだ。


…え?あの規模…え?これ私もダメージ負わない?





「いや私、幽霊…」 


カイが一言添えると、彼女の足元にあった魔法陣が消える。


「え?」









「そっか…幽霊…なのかぁ」


「カナさん…この人、誰ですか」


『えーと、私もわからん』


図書室の机でがっかりする謎の女。


『なんか…カイのこと、魔物と思ってたららしくて、成敗してやるわ!みたいな』


「あ…。厨二病…ってやつですか?」


カホの言葉で「むむ」と口を開き泣きそうな顔で彼女は反論する。


「うるさい!厨二病なんかマセガキがなるようなやつと一緒にするな!私の力は本当なんだぞぉ!」


彼女の逆鱗に触れたらしい。


『わかった!わかったから!図書室だから静かにして!』


彼女はうあああああああ!と声を上げ、図書室を出てどこかへ消える。ヤキモチにしては焦げて炭になるほど酷いな。


「行っちゃいましたね…名前も聞けませんでした」


『なんか心配だから後追っていい?』


「え!?私の仕事っぷりは!?」


『また見るから!行ってくる!』


「あ!ちょっと!」


ごめん。あいつを放っておくことが私にはできない。だって八つ当たり感覚で私以外にも魔法撃ちそうだもん!


「行っちゃいました…」


「ふふふ、それでこそ、カナですね」













『…私ってさ。この力。最初はワクワクしたし、漫画やアニメに出てくる魔法使いとか、ヒーローみたいになれるかな、って、思ってたのに』


いざ蓋を開けてみれば、そんな世界を脅かす生物なんて存在しない。


まあ、その方がいいのだろうが。


『ねぇ、マガ』


「なー」


私にこの力をくれた小さな精霊、マガ。

頭には葉っぱが生えている。


「あ、いた」


『ぬ』


「いや、落ち込むなら屋上とかそこら辺行ってくれない?」


『だって…立入禁止だから』


「それはそうだけど校長室で落ち込まないでほしいんだけど!いろんなところ探し回ったんだからね!?」


『男子トイレじゃないならまだマシじゃん』


「そうだけどそうじゃない」


壁には歴代校長の顔写真がずらりと並ぶ。


「ん…あれ?誰、このちっちゃいの?」


『視えるんだ…。まぁ、幽霊みたいなもんか?このちっこいのは、マガって言うの。私の魔法を手伝ってくれる精霊。…それと、何の用?…図書室を騒がせたこと?君の大事な幽霊を魔物呼ばわりしたこと?』




「私は、今田カナ。…あ、いや…名前が聞きたくて」


『なんで?』


「なんでって…友達になりたい…から?名前なんて知って損はないと思うけどなぁ?」



馬鹿らしい。友達なんて、ただの自慢材料でしかないのに。




ないのに。彼女からは。





「いいでしょ?魔物見つけたら、連絡するから!私じゃどうしようもないもんね…。え!?いるってことは、もしかしてだけどもう私どこかですれ違ってたってこと!?」


『いや、それはないと思う…』


「よ、よかったー…」








彼女からは。




純粋な「仲良くなりたい」という気持ちしか、

読み取ることができない。


こんなに善い人間と、友達になんてなれる私は。


幸せ以外の何物でもない。







ガチャ、とドアが開く音がする。


この顔は…さっき壁に立てかけてある写真の1番右奥に…


「こ、校長先生!すみません!」


カナは、校長を見るやすぐ頭を下げる。


「は…え?」


驚いた表情を見せる校長。…なんか、おかしい。

独特な匂いだ。


神経を逆撫でするような、


舐り回すような。


『!』


「いや、あの、その…色々あって!失礼しました!…誰だっけ?名前聞いてないや!」





「フふ、まァ、いいッてコトヨ」


最悪だ。



『カナ!逃げて!』 


「え?」


『窓から!はやく!』


「どうシタンダい?逃ゲチャア、悪9見Lジャアナイカ」






『お前…“誰”だ』


杖を校長に似た“ナニカ”に向ける。


“ナニカ”は口を開く。


「…勘ノ良イガキㇵ嫌イ゙ダヨ」



校長先生の体が礼儀正しさを醸し出す洋服をビリビリと破り、大きく、毛深く、獣のような、見た目になっていく。




「〈グルオオオオオ!〉」


鋭い咆哮。鼓膜に突き刺さる。


カナは!?


後ろを見ると、恐怖で腰が外れて動けおらず、蹲っている。無理もない。


だめだいざという時のための私だろ!?冷静になれ!!


魔物だ。そして、地面が…揺れている?


床に亀裂が入っていく。


…校舎が、崩れる!?




「ぬー!ぬー!」


『マガ!カナを!』


早く出なければ死死死死死死死死死死死死死…

















『どこだ…』


校舎が校長室を中心に壊滅的被害。


カナは?カナは無事?


「な!なー!」


マガが訴える。


『…いた』


瓦礫を乱雑にかき分け、その姿を見せる。


衝撃で気絶しているようだが、マガが頭部など大事な部分の損傷を避けてくれていたらしく、命に別状はないとみてよさそうだ。







視線を、元校長の魔物に向ける。

魔物を助ける方法は、




ない。





魔物は、人からの変異種であり、本来滅多にあるわけではない。…あるわけがない。



魔族の血筋の人間が、なるのだが…。


よくある、突然変異のようなもの。


魔族の血筋はこの世界にありふれている。

俗に言う、血液型A型。



大抵の人間は、突然変異は風邪や筋肉痛、頭痛などで収まり、それ以降は変異が二度と出なくなる。




もしだ。





天文学的確率で、


症状を抑える遺伝子がなかったら?



そして、今の今まで、その遺伝子変異がなくて、


今、この時に起きたとしたら!?




「〈グルオオオオオオ!〉」



あいつみたいに、なるのだろう。

変わったものは、戻せない。


魔物を“人にして”助ける方法は、ない。

もう、人じゃないから。


知っている。


マガに何度も教えられた。



『でも…』


姿形が変わっている。人としての意識はない。


『殺せるわけ…ない』


元は、人なんだ。彼は何も悪くない。


私はダメだ。


魔法使いなんて、向いてない。


「なー!のー!」


『ごめん、マガ…ごめん…私には、無理だ』


私が…なぜ、選ばれたのか…


こんな、出来損ないに。





『…?』


私の方を誰かがポンポン、と叩く。


「ちょいとお体拝借していい?」


『さっきの…幽霊。どういう事?』



「こういうこと!」



『!』








「…俗に言う、憑依ってやつ?」


この幽霊の声を最後、私の意識は途絶えていった。











『「ははは、こりゃあすごいや!」』


両腕もある。歩ける。


視界がモノトーンで霞んでいない。


「〈グオオオオオ!〉」


『「さあ、ケリをつけようじゃないか」』


特大の、デカいのを一発!


狙いを定める。


『「はぁぁぁぁぁ!」』


すまないね!倫理観とかないから、幽霊には。


勢いよく射出…直撃!当たった!





魔法弾、着弾。数コンマ秒後、大爆発。



「〈オオオオオオオ!〉」



野獣の、断末魔が響き渡る。


また…世界を救ってしまった。



これ言ってみたかったんだよね。








『は!ここは?』


「お、やっと起きましたね!」


目を開くと、「きゃーはー」とカホが泣きながら抱きついてくる。


『とらあえず、無事なのかな、これは』


「無事ではない…かな?」


『あ…!そうだ!名前!誰?だっけ?』


「私は黒髪奈那(クロカミナナ)!ナナって呼んで!」


私に抱きつきながら、カホは現状を話す。


「一応、校舎の崩壊は「理科部のデーモン・コア実験ミス」と処理されたらしいです」


『えそれ理科部めっちゃ風評被害じゃね?』


あんな危ない物取り扱ってんのかってネットで批判されるやつじゃん。


「まぁ、そこら辺はだいじょぶ!公認で、警察と魔法使いは、繋がってるから。警察がそういう風に処理したんだと思う」


「多分理科部は廃部ですね」


『カホ…』


「大丈夫ですよ、女子バスケ部行くので」


『あれ?カホバスケやったことあるの?』


「なに言ってるんですか、舐めないでください。安定したサポートでチームに貢献してやりますよ!」


もしかして、小さい頃やってたのかな?


『おぉ!すごい自信』


「…マネージャーとして」


『駄目じゃねぇか』


「とりあえず、突貫工事作業のため今週は学校休みだってさ。オンラインでやるらしいよ」


「はぁ、めんどいですね」


「クラスまたいでいいらしいよ、カホ」


「最高ですか?」



そう思うと…なんか…体が重い。安堵からか?


『疲れた…もうちょい、寝るわ』


「私も寝ます!ちょっとスペース空けてください!」


「じゃあ、私も…」


『えええ…!』





こんなにも非日常の連続。


自殺しようとしたり、


幽霊に憑かれたり、


個性豊かな友達がいて、


魔法使いがいて、


魔物に殺されかけて。


この毎日を。





愛せない理由があるだろうか?







「私、夢だったんだ」


『何が?』


「私の事、受け入れてくれる、友達」






「魔法でも作れない、大切な友達」













「起きるんだぁ!カナぁ!」


私の部屋のドア開け、威勢の良い声で私を起こす。


『…ユズキ…あと24時間寝かせて?』


「1日終わるよぉ!?変なこと言ってないで早く起きて!ヨーグルト冷めちゃうよぉ!」


『あれ温めて食べるものじゃないから…え?マジで温めたの?』


「うそだよぉ。カナならツッコむために起きるかなって思ってぇ」


『テメェ…!』



許せねぇ。


時刻は9時。普通ならもう授業が始まっている時間だろう。昨日の激闘(私は瓦礫の下で寝てたらしい)によって校舎が破壊され、学校は休校に。私としては行くのめんどいわ、教室に居場所ないわで最高なのだが…


『暇…』


オンライン授業といえど午前のみなので確実に暇。


…まぁ寝ればいいか。人生楽しすぎぃ!


いざリビング…に…。


「いただきますです!カナさんいつもこんな美味しそうなの食べてるんですか!?羨ましい!」


『あん?』


「あ!カナさん!やっと起きたんですね!カイさん!カナ、起きましたよ!」


「お、カナ。おはよ。よく眠れた?」


『ああん?』


「カナも、朝ご飯欲しいんですか?仕方ないですね…はい、あーん」


『あむ…美味しい。やっぱユズキが作る朝ごはんは…いやちょっと待て』





第795回︰家族会議


(母不在)


『なんでカホがいるの?』


「見て下さいよ時計。9時半です」


『そうだね…』


「昼間です」


『朝だわ』


「まーまー、カナ。ここは一つ考えてみよ?」


『カイ…。何を?』


「もうすぐ6月じゃん?」


『まぁ…そうだね』


「じゃあもう昼間だ」


『意味がわからん』


「しっかりとした理由があってきたんですよ!」


『ほう…私を?納得させる理由があるとでも?』


バチバチに目を見合う。


『来いよ…』


「喧嘩上等です…」


バトルスタートのゴングが鳴る!


先手必勝ォォ!


「まぁ、カナさん授業終わったら絶対暇ですよね」


『ぅ゙』


猛烈なカウンター。からの、


「どーせ『寝ればいーやん』みたいなこと考えてますよね?」


強めのジャブ、


『ぅ゙っ』


「竹島はバチカン市国の領土とか思ってますよね?」


『思ってないから!どこの国の思想?それ!』


謎のフェイントからの…


「…カナさん…この休み…寝て終わらすつもりですか…?」


『やめてくれぇ!わかった!わかりましたって!』


アッパーでKO。ゲームセット。





そして…


時刻は夜の12時。


普通だったら私寝てたのに!


寝てたのにいいいいい!


『ウキャアアア!』


「ちょ!カナ壊れたけど!?」


「大丈夫ですハツカさん!想定内です。これをあげれば…」


彼女は私にあるものを手渡す。


『え…なにこれ』


「えっちな本です」


『あたしゃ中学生じゃねぇんだよ』


いやなんで持ってるんだよ。


『こんな夜中に…学校来て、何するの?なんか、ハツカもいるし』


「それはもう…わかりますよね?ハツカさん」


「決まってるよ、そりゃあ」


ふたりで打ち合わせでもしたのかなーとか思いながら、白々しい猿芝居を見る。


「「せーのっ」」


「肝試し!」「シャトルラン!」


『バラバラですね、見事に』


あとこんな夜分にシャトルランやるわけがない。

その後、カホから「肝試ししましょー!」と言われ、理由を私は尋ねた。…肝試しのシーズンにしても、早すぎる。…5月はまだ春のくくりだし。


カホ曰く、この高校の3不思議(だいぶ少ないが触れないでおく)の中の一つ、


中庭の銅像を守る幽霊がいるとか。


目を合わせると、木にされる。


だから、中庭には木が多く生い茂っており、誰も植えていないのに…年々1本ずつ増えていく。




「え、怖くね?」


カイが怖気づいた声で私に言う。


『いやお前幽霊だろ』


「ハッ」


「ハッ」じゃねえよ。 …まぁ、どうせいるにしてもこんな感じでバカなやつだろ。


…だよね!?そうだよね?


「暗いね…」


「そうですね…こんなこともあろうかと!」


『お、懐中電』


「テッテレー!キャンプファイヤーセット!」


え?


「先生にわざわざ電話して中庭で野宿していいか許可取ったんですよ?感謝してくださいね?」


「うわあ、カホナイス!」


『もう…わたし、つっこむのつかれたわ』


ふと空を見る。月が綺麗だ。


「今の、私への告白?」


『違うよ…そうか…カイに聞こえてるんだ…』


「ふふふー、どーしよーかなー?振ろーかなー?」と一人で勝手にキャピキャピしてる幽霊を横目に、カホとハツカは2人で銅像の近くでテントを立て、火をおこしている。


おこし方は原始的なあの『木の板を棒でひたすら擦るやつ』だ。キャンプファイヤーセット持ってきて火おこしの材料持ってきてないの?


「ちょ…もう無理だよお、カホ」


「任せてください、こう見えて「火と戯れる美少女戦士」の異名があるんですよ」


ダサ。


彼女は棒を手に取り、火をおこしはじめる。


「あ、これムリですね。ライター使いましょう」


諦め早!異名は?プライドは?


「マシュマロ!マシュマロ焼こ!」


「ハツカさん、神ですか!?なんで持ってきてるんですか!」


もし今幽霊がいるなら、重ねてお詫びしたい。


「カナさん、眠いですか?」


『え?まぁ、もう遅いし…』


「そんなこともあろうかと…」


『期待してないから安心して』


「テッテレー!寝袋です!」


『神か?』
















『…寝てた』


寝袋が気持ち良すぎる。


隣には同じテントの中で2人(と幽霊1人)が体に毛布をかけて、スヤスヤ寝ていた。


特に意味もなく、外の空気が吸いたくなったので、私は外に出た。外はまだ暗く、星が僕を見てよと言わんばかりに光っている。


『まだ…火がある…あったかい』


体を火に近づける。もうちょいあたろーっと…







「あっ…」


『あっ…』


誰かと目が合う。声と見た目的に、女性。

ハツカの残したものであろうマシュマロを焼いて食べようとしている。


『えーと…噂の、幽霊…さん…ですよね?』


「そ…そうだが」


幽霊は、キツネの見た目の、ユズキのような、半獣のような見た目をしている。


あれ!?いまどういう状況!?


まず状況整理だ。




オンライン授業が終わった

カホと夜までマイクラした

寝た

カホに叩き起こされて学校へ

中庭に幽霊がいるらしい

中庭でキャンプファイヤー(?)

テントの中で寝袋で寝る

起きる

なんか、いる。←今ここ




いやわけわからん。そして、このあとの行動だ。


無闇矢鱈な行動は、噂通り木にされる可能性がある。


1.逃げる


『逃げろぉ!やべぇ!』


「あ、ちょ!…ほい!」


『ぎゃあああ!』




木に変身。おしまい。

やだぁ!やだよ!




2.和解


『まぁ…お互い大変だから、ここは穏便に、ね?』


「ほい」


『ぎゃあああ!』



木に変身!おしまい!

アウトじゃん!なにしてもゲームオーバーじゃん!





「えーと、怒ってるのか?」


『いや、別に…幽霊って、マシュマロ、食べるんだなぁって…』



変な回答は、死を意味する。

こんなにも殺伐とした会話は初めてだ。


まさしくデス・トーク。


「これ、美味じゃ。甘いし、人が作るものは、やはり面白いのお」


『そ、それは良かった…。木に、しないの?』


「どういう質問なんじゃ?それ…」


あれ?目が合ったら、みたいな噂は?


「…そんな噂、信じるでない。妾への誹謗中傷じゃ」


『まぁ…確かに』


「というか、よく私がここに出現するのわかってて、火をおこしたのう…。あっちっちじゃ、ったくのう」


『いや、それは…あいつらが!私は『やべーなこいつら』って思ったんですけどね!?』


『あ、それと…なんでここにいるんですか?』











「…主の、帰りを、待っているんじゃ」


『ある…じ…?』







「もう、何十年も前の話じゃ。…主は、とても優しい人だった。いつも物静かで人が嫌いな妾に、しつこく、かけよって来てのう。生徒にも、先生にも、いろいろな人から、好かれて、頼られて。妾の主は、世界で一番の人間じゃ」


「妾が病気を患い、医者にも余命が長くない、と言われたその日の晩、主は言ったんじゃ」





【お前が死んだら、俺は悲しいな。お前が、妻みたいなもんだからよお。死んだら、でっけえ像を立ててやる。お前がもし霊になるなら、そこで待っててくれ。俺が死んだら、其処に行く。待ち合わせだ】










【最愛の妻と、天国で初デートだ。どーだ?…ははは。わからねぇかもな。俺の言葉】










【死ぬ前の、楽しみが一つ増えたよ】


「妾は、今も、主を待ってる。必ず、主は来ると」




初代校長の顔写真が額縁に貼られていたのを思い出す。


何か、額縁の左下に、書いてあったような。




《○年 ○歳 1973年 〇〇》



数字が、思い出せない。


なんだったっけ…



…思い出した。


できたら、思い出したくなかった。













《享年 63歳  1973年 死去》








もう、だいぶ前に、“主”は居なくなった。



今から、50年以上も、前の約束を。



彼は、覚えているだろうか?


「その顔…お主、主のことを何か知っているのか?」


『知ってる…けど』


言えばいいのか?もうだいぶ前に死んだと。


約束を忘れて、もう天国にあなたを置いて、先に逝っているのでは、と。



「…そうか」


『いや、あ、その!今何してるんだろうなーって思って!』


「いいんじゃ、主が、約束を、忘れていても」


『…』


「妾みたいな、動物なんかより。…親しい人間と、一緒に、今、楽しく暮らしてるなら」



私は、泣いていた。



なぜ?


泣きたいのは、幽霊の方なはず。



「お主は…優しいのう」


『ち…違…う…優しくなんか』


「妾はバカじゃな。よくよく考えてみれば、あの約束破りの主が、こんな事、守って来るわけがないのに」



ははは、と。


幽霊は、優しい声で笑う。


『…』


「でも、そうなると、面倒じゃな…。主と天国に行く、という未練は残ったままだから、天国にも、転生も、できない」


『…』


「ときにお主」


『…なに?』


「この世の未練は、あと、お主だけじゃ。妾を、これからの人生の荷物として、天国まで持って行ってくれんかのう?」






笑顔が月に照らされる。



『ずいぶん…可愛い、お荷物ですね』


「ほっほっほっ…お世辞がうまいのう。こう見えて、妾は10歳なんじゃ」


『キツネ基準だから、若いのか老けてるのかわからない…』


これがフォックスジョークじゃ、と私には少し理解が難しいギャグを交えられつつ、名前を聞かれた。




「名前は、なんと申す?」


『…今田カナです』


「いい名前じゃ。…カナ」


『?』







「月が、綺麗じゃな」





『私は…まだ、死にたくないかな』











『だから、死ぬまでいっしょ。ね?』


「こりゃあ、一本取られたな」





二人で、月と火を見ながら…。









静かに、マシュマロを咀嚼した。

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