6.兵士たちの狙い

「なるほど、早くも一つの村が懐柔されたか」


 女性騎士がマリアちゃんを見て言った。


「予定通りにやる。すぐに展開しろ!」


 女性騎士は続けて指示を出すように右手を上げた。


 予定通り? テンカイ?


 私は身構えながら兵士たちを見据えた。


 すると、女性騎士の後ろにいる五人が片腕を前に伸ばし、魔法の詠唱と思われる言葉を並べた。


 伸ばした手の前方に、直径一メートルほどの魔方陣が浮かび上がる。


 そして、魔方陣が炎で紅く覆われた。


 これは、火の魔法……。


 目で見てはっきりと火の魔法だとわかる。


 自分たちが使えるのだから、現地の人間が使える事を不思議だとは思わない。


 なのに、なぜか違和感が……。


(あっ!?)


 兵士たちの目線と体勢を見て違和感の正体がわかった。


 伸ばした腕が私に向けられていない。


 これは一人の人間に対してじゃない。


 もっと広い範囲に向けられている。


 標的が私じゃないのは明らか。


 まさか、狙いは後ろにいる子供たち!?


「放て!!」


 女性騎士が魔法を放てと号令をかけた。


 魔方陣から大きな火の渦が勢いよく放出される。


 辺りを一帯を火の海にしてしまうのではと思わせるほどの規模を持つ火のうず


 ……違う、狙いは子供たちだけじゃない。


 子供たちを含めた村全体がまとになってる!!


「駄目!!」


 私はマリアちゃんの前に出ると、無我夢中になって火の渦を防ごうと魔力で壁を造ろうとした。


  それは三姉妹の魔女と五人の騎士物語の中に存在する魔法、アリシアが得意とした魔力による防御結界バリア


 詠唱なんてしてる暇はない!


「ハァァッ!!」


 両手を前に突き出す。


 すると、広範囲に及ぶドーム型の透明な壁が私たちを含む村全体を覆った。


 学校のグラウンドを包み込むほどの大きな壁は、襲い掛かる五つの火の渦を四方へと散らす。


「ぐっ……」


 結界が壊れそうな感じはしない。


 火の渦にされている感覚もない。


 だけど、結界を維持するのに体力の消耗が激しくて、今にも膝が折れてしまいそう。


めろ」


 魔法が放たれてから約十秒後、女性騎士が制止を掛けた。


 後方に並ぶ五人の手の先から魔方陣が消える。


 火の魔法による攻撃がみ、私の集中力が切れると同時に防御結界は霧のように消えた。


「ハァ……ハァ、ハァ……」


 前を警戒しながらゆっくり後ろを振り返る。


 村を背に、子供たちと子供たちを守るように前面に立っているクラウドがいる。


 誰一人として怪我をしている様子はうかがえない。


 よかった。子供たちも村も無事だ。


 突然の事だったけど上手く行った。


 でもプレセアの言ってた通りだ。


 魔法は体力の消耗が凄く激しい。


 結界の規模が大きかったのもあるだろうけど、簡単に使っていいものじゃないみたい。


 使う場面をちゃんと考えなきゃ。

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