最終話 こじらせ・ぱらどっくす
私はあの日修司に告白した桜の木の前に立っていた。
想に言われて、思い出の場所を巡っていたのだ。
見上げると美しく紅葉が咲き誇っていた。
あの日とは違う景色。
日が落ちるのもいつの間にか早くなって、もう夕暮れだ。
オレンジ色の空に浮かぶ深紅の葉。
あの日はどんな色だっただろう。
青空に浮かぶ薄紅色だろうか。
それとも、純白の雲に浮かぶ桃色だっただろうか。
覚えていない。
移りゆき、変わっていくものだと思う。
私もきっと、そうだ。
でもこの木が桜であるように。私も私だ。
修司のために、私は沢山変わってきた。
優等生を演じたり、ギャルになったり。
本当にこじらせてきた。
思い返せば全部裏目ですれ違ってきた。
本当に難しい。
ほんとうに。
今日3回目の告白をしようと意気込んでいた。
それなのに、弱い心が邪魔をしてせっかく縮まった距離を台無しにしてしまった。
修司は元々私の趣味をどうこういう人じゃないのに、素で接しようとしたらこれだ。
むしろ前よりも恥ずかしい気持ちが強くなっていた。
再度頑張ろうと意気込んだものの、たまたま修司が女の子を抱きしめている姿を見た。
ああ、やっぱり私のことは好きじゃなかったんだって思ってしまった。
想がガツンと言ってやると言ってくれた。
私はその言葉に甘えてここにいる。
きっと修司は優しいから来てくれるだろう。
これで最後の告白だ。
私が私であるために。
好きだと、ちゃんと伝えよう。
ーーーーーー。
『卒業式の後話した場所!そこで待ってます』
私はメッセージアプリを起動し、修司に送る。
刹那、送信ボタンを押すのと同時に足音が聞こえてくる。
砂やほこり、泥をつけて汚れた現れたのは修司だった。
顔や腕、手には傷跡があり、喧嘩をしたことがすぐに分かる。
「はあ、はあ。み、みつけた……!」
修司は私を捉えるとニコッと優しく微笑む。
ボロボロの姿で懐かしい笑顔がそこにはあって。
ああ、やっぱりこの人が好きだと想う。
「修司……」
来てくれて嬉しい気持ち、怪我していて心配な気持ち、告白しようと先行する気持ち、結局振られてしまうのではないかという悲しい気持ち、さっきの光景を思い出し嫉妬する気持ち、たくさんの感情が私を支配する。
きっと私は今不安な顔をしているだろう。
「遅いかもしれないけど、聞いて欲しい……!僕の気持ちを!!」
肩で息をしながら、修司は言葉を紡ぐ。
必死に何かを伝えようとしているのが伝わる。
「好きだ……!!!!」
「……え?」
心の準備をする間もなく告げられた言葉。
ずっと欲しくて、求めていた言葉はシンプルに告げられる。
あまりの呆気なさに、驚きと困惑が生まれた。
「いま、なんて……?」
「好きだ、大好きだ!めっちゃくちゃ好きだ!!」
もう聞き逃さないように、何度も好きだと伝えてくれる。
精一杯、本気で、こっちが恥ずかしくなるぐらい大きな声でその言葉は発せられる。
「僕と付き合って欲しい。……本当に大好きだから。」
優しく、ゆっくりと近づいてくる修司。
その顔は紛れもなく本気で、どこにも迷いなんてなかった。
「私はずっと、ずーっと。ずっとずっと、好きだったよ?……ねえ、どうして今なの?」
嬉しい。めっちゃくちゃに。
今すぐにでも、抱きつきたい。
それでも、このまま流されるのは違う。
ここまでこじらせてきたんだ。
ちゃんと、修司の言葉を想いを知りたい。
「ずっと、君を傷つけるのが怖かったんだ。……分からないことも多くて、理解しようと努力しても、どんどん離れていくような気がして。」
ゆっくりと思い返すかのように、自分の気持ちを言葉にしていく。
その言葉の一つ一つが、私には嬉しくて、修司も同じように悩んでいたんだと理解していく。
「でも、好きな気持ちはどんどん大きくなっていって、辛くて、でも怖くて。……ちょっとした事で嫉妬して、イライラして、自分が弱いだけなのに素直になれなくて。逃げて。逃げて。」
修司は辛そうな顔で言葉を紡いでいく。
瞳にたくさんの涙を浮かべて、強く強く言葉を紡いでいく。
「でも僕は僕でしかなくて。結局澄のことを考えても、僕の中での澄でしかないって思ったんだ。……ずっと迷って、悩んできたけど、素直の気持ちは君の隣にいたい。」
俯いて呟いていた修司は瞳を大きく開けて、決意を露わにする。
「いつも僕に明るく話しかけてくれて。本気で向き合ってくれて。……急に優等生になったり、ギャルになったり、分からなくなること多いけど、どの澄も全部澄で。根っこの部分は何も変わらなくて、魅力的で、素敵で、ほんと、大好きなんだ!!」
もう何言っているのか分からないぐらいメッチャクチャな言葉で、でもそれだけに修司の気持ちが伝わってくる。
「言いたいこと多すぎて、めちゃくたゃになってるよ……でも嬉しい」
私は嬉し泣きしながら修司に向き合う。
「修司、私もね。修司が大好き!……いつも同じ目線で話してくれて、私のこと沢山考えてくれて、一緒にいると楽しくて。……大好き」
「僕鈍いから、沢山分かってあげられなくて傷つけてしまうかもしれない。……でも知らない君も理解して愛したいし沢山知りたい。……こんな僕と付き合ってくれますか?」
「私は……そういうあなただから、好きになったんだよ。……こちらこそ、お願いします。」
2人とも涙いっぱいで感情がめちゃくちゃで。
それでも私たちは向かい合って笑いあった。
長い長い私たちの恋愛はようやく成就したようです。
そしてこれから、またたくさん困って喧嘩して、お互いにすれ違って。
でも最後にはこうして、笑い合えたらいいな。
そんなちょっと先の未来を想像してしまうぐらいには、幸せな気持ちでいっぱい。
ーーーーーー。
後夜祭。
夜空に花が咲く。
赤い色、青色、黄色、緑色。
たくさんの色。たくさんの形。
澄は修司と手を繋ぎ、見上げる。
「ほら行くよ!澄!よく見える場所があるんだ!」
「もぅ、ほんとに〜?」
「ほら!ここだよ!」
「はしゃぎすぎだって〜……うん、でもほんとに綺麗!」
「へへ、でしょ?」
伊織を引っ張りながら想は笑う。遅れて、伊織も笑ってみせる。
「やべえよ!後夜祭始まってんぞ!伊織!」
「ま、待ってください!もう疲れて走れません!」
「しかったねえな!……ほら、手を繋いでいくぞ!」
「え、いいんですか!?」
「なんだよ、元気じゃねえか!」
「フフ、あ、バレました?」
「おまえ〜!」
緊張する彩。その彼に抱きつきながら、イタズラに微笑む雫花。
「ほらメインイベントだよ!チューしよ!」
「はやいって、さすがに色々!」
「もお!ケチ!」
「人いないとこなら……いいかも……ね」
「お?そんなこと言われたらしちゃうよ〜!」
「……ったく。俺ばっかドキドキだよ」
ーーーーーー。
人の数だけ考え方があって、時にはすれ違う。
でも違う形が混じり合う時、それはとても素敵で尊いものなのかもしれない。
こじらせ続けてきた彼ら彼女は特に歪な形をしていたのかもしれない。
だが、だからこそ今この夜空を笑顔で見上げているのかもしれない。
確かに積み上げてきた選択は決して無駄ではなく、必要な事だったのだろう。
少なくとも、澄はそんなことを思うのであった。
「ね、修司!……だいすき!いっぱい幸せになろうね!」
「うん、幸せになろうね。……僕たちらしくやっていこう。」
澄はぎゅっと、その手を握り、修司は優しく握り返すのであった。
【完結】こじらせ・ぱらどっくす!〜真面目で清楚じゃ、振り向いてくれないからギャルになってみた〜 パスタ・スケカヤ @sukekaya
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