第10話 またまた護衛を頼まれた
半月ほど過ぎたとき、宿屋にルートヒルトの使いの者が来た。話があるので、明日の夕方に商店に来てくれとのことだった。
何事かと思いルートヒルトの店に向かった。
ルートヒルト商会は、クライムの街では中堅の規模で、主に商人相手の素材の卸をしている。商会の入口には様々な木箱が積まれ、仲買人や小売商の店員が仕入れに来て、あちこちで商談したり、商品を運び出したりしている。
その中に見知った顔を見つけた。護衛をしていたライドだ。
俺は手を挙げて
「ライドだったかな?」と声をかけると、相手は俺に気付いて
「リュートか?」
「ルートヒルトさんに呼ばれたんだけどな」
「そうか、ちょっと待ってくれ」
ライドは近くにいた少年に、なにやら言伝をした。
「その辺りに座ってくれていいぞ」と、壁際の商談用の小さな机と椅子をさす。
「そうさせてもらう」と答えながら、ルージーを促して二人して小さな椅子に腰を降ろす。
女の人がお茶を持って来てくれたので、お茶を飲みながら待つ。
暫く待っていると奥から本人が出てきた。
「いや〜、お待たせしました。こんなところで待たせて申し訳ない。ライド、奥で待ってもらっても良かったんだぞ」
「気がつかなくてすみません」
ライドが大きな体を縮めて恐縮している。
「とにかく奥へ来てください」
ルートヒルトに付いて奥へ入る。「とにかく私の部屋へ」と通されたのは大きな事務机が正面に据えられ、その前に応接セットがあるものの、その周囲には所狭しと荷箱が積まれた部屋だった。
「まあ、掛けて下さい」と言いながら、机のベルを取り上げて振り、侍女を呼ぶ。
「お客さんにお茶と菓子を持ってきて」
そこまで指図すると事務机の向こうに回り込み、ドカッと腰を降ろす。
「忙しそうだな」
「貧乏な商人に暇は敵ですよ」
「そんなことはないだろう」と俺は混ぜ返す。
「ところで、お連れの方を紹介してもらえませんか」
とルージの方を見て言った。
「おう、そうだった。こっちはルージーだ、今、一緒に狩りをしている」
「腕っぷしが強そうですね」
俺がルージーの顔を見ると、ルージーが頷いたので、
「ハーフドワーフだそうだ」と説明した。
「一緒に狩りをされているなら、ルージーさんもかなり腕が立つんでしょうね」
ルージーは背は低いが、体も腕も太くて、素人目にも力がありそうに見える。
「ああ、ゴブリンなら一発で殴り殺せる」
「それなら、期待できそうですね。そうそう、本題に入りましょう」
「それを聞くために来たんだが」
「また護衛を頼みたいんですよ」
「馬車の護衛か?」
「国境の砦まで届けないといけないものがありましてね」
「危険なのか?」
「ちょっと不安でしてね」
「また、盗賊が出そうなのか?」
「盗賊を装ってますが、お隣の国の傭兵ではと、もっぱらの噂でして」
「それなら領兵の仕事じゃないのか?」
「私らみたいな弱小の商人相手に領兵は動いてくれません」
「なるほど。事情は何となく分かった。それで詳細は?」
「ヤヌツンクの砦まで、馬車3台分の荷物を運びます。私の他に2名の商人がいて、各自、自分の馬車を1台ずつ用意します。片道3泊4日。各商人で4名ずつ護衛を出す手筈です」
「成程。しかし、護衛の数が少なくないか?」
「商人の使う荷馬車は前に4人乗れ、後ろに2人乗れるようになってますので、護衛を4人にすると全員が馬車に乗れますので。徒歩や騎馬の護衛はなしで済ませます」
「それは有難いが、護衛をそこまで絞る理由はあるのか?」
「一つは経費ですね。もう一つは」
とルートヒルトは、机の後ろからソファーまで移動してきて、声を潜めて、
「最近、護衛が信用できないんですよ。だから、全員、絶対に信用出来る者4名に絞るという約定をしましてね。自分自身とお互いのリスクを減らそうという話になっているのです」
「俺たちは2人でいいのか?」
「もともとは、リュートさん一人と他に3人を雇う予定でしたが、リュートさんとルージさんを一緒に雇わせてもらいますよ」
「報酬を聞いてもいいか?」
「お二人で1日銀貨5枚でどうです?8日として銀貨40枚。何かがあったときの危険手当は別に考えます。宿場村に泊まりながら行きますので、野営はなしです。食事と宿代はこちらで持ちます」
「それは有難い。出発はいつになる」
「6日後を考えています。」
「それまでに準備を整えておく」
「前日に使いを遣ります」
「了解した」
話を終えてルートヒルト商会を出た。
翌日、ルージーの武器と防具を買うために、もっと金になる魔物を狩ることにして、俺たちは森の奥に向った。狙うのは、1体倒すと金貨1枚稼げるというキラーベアだ。
今のルージーでは、キラーベアを相手取るには、まだ力が足りない。だから、俺一人で倒すつもりだ。奥の手をすべて使えば倒せるだろう。
ルージーを連れてきたのは、キラーベアを運ぶのを手伝ってもらうためだ。
かなり奥に入ったところで、お目当てのキラーベアを見つけた。
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