第18話 元傭兵はお買い得
ゴブリンやグレーウルフだけでなく、マッドボア、ヒュージースネークなどとも何度か出くわし、手に持った剣と風魔法で攻撃していると、風魔法のレベルが上がった。
風魔法のレベルが2になったことで、ゴブリンの首をウインドカッターで切り裂くことができるようになった。ウインドシールドは自分の周りに竜巻を起こして、敵の攻撃を跳ね飛ばすものだが、まだ力が弱い。
ルージーとは、木の枝を削った木剣をつくって模擬戦を繰り返しており、俺自身の地力が少しずつ上がっているのを感じる。
俺の相手をしてくれているルージーの実力が気になるので聞いてみると、ジョブはまだ農民で、スキルは棍棒レベル6と盾レベル2を得ているとのことだった。
本来、この世界では、ジョブとスキルを聞くのは禁忌となっている。ラノベと違って、ジョブとスキルを客観的に確かめる手段はないらしく、本人以外は知らない究極の個人情報なのだろう。
ただし、これには例外があって、それが奴隷だ。奴隷は、自分のジョブとスキルを、売買の仲介人と購入者に教えなければならないと、奴隷法に定められているとのことだ。
だから、俺はルージーにジョブとスキルを聞くことが出来る。
そして、この奴隷法の定めは、この世界の住人ではない俺に、安心出来る仲間は、ジョブとスキルを確認できる奴隷だけだという歪んだ認識をもたらした。
リンデンの街に着くと、真っ先に奴隷商館を訪ねたが、いい奴隷がいなかったので諦めた。その日と次の日を休息に当て、食料などを買い込んで、次の日の朝、ラズラに向けて出発した。
リンデンからラズラまでは4日かかり、途中に宿場村がある。
クライムの街を出発するときに簡易テントを買って、リンデンに来るまでに使ってみたが、2人で野営するとろくに眠れないことが分かったので、ラズラまでの移動には、無難に宿場村に泊まることを選んだ。
リンデンの街で、刃を潰した剣を買っており、道中の宿場村では、メイスと盾を構えたルージーと真剣勝負モードで模擬戦をしたりした。
ラズラに着いたときには、風魔法がレベル3になり、剣術も少しずつ上達しているようだ。
ラズラは思っていた以上に大きな街で、門の前の長い行列に並んだ。ついに俺たちの番になり、「身分証明書を見せろ」と言われたので、奴隷所有者証明書を見せると、少し対応が丁寧になって、そのまま街に入ることが出来た。
門を潜った俺は、直ぐに奴隷商に向かった。
言っておくが、奴隷を買うのは戦力の拡充の為だ。決して、やましい目的じゃないぞ。
奴隷商の館に入ると太った店主が出てきて
「どのような奴隷をお求めですか?」と聞いてきた
「戦闘のできる女奴隷を探している。腕の立つ奴隷はいるか?」と聞くと、
「一口に戦闘が出来るといっても、条件はいろいろございましょう。それをお聞かせ頂かないと、お気に召す者を連れて来ることができません」と言われた。
「女としては体格が良いか背が高いのがいい。それに腕が立つのも条件だ」
「ご予算はいかほどで?」
「金貨6枚の範囲だな」
「条件が厳しいですが、数人はおりますのでこの部屋でお待ちください」
奴隷商が出ていくと給仕が紅茶を出してくれたが飲まなかった。何が入っているかわからないから奴隷商の館では何も飲まない。
しばらくすると奴隷商が部屋に戻ってきた。
「こちらをご覧ください」と部屋の一方を塞いでいたカーテンを開く。
カーテンの奥には5人の女奴隷が並んでいた。何人かは体格がよく、かなり強そうだ。その中に、元の顔が分からない程、顔に幾つもの酷い裂傷がある女がいた。他の奴隷より頭一つ分背が高く、よく鍛えられた筋肉をしている。
「この奴隷は?」
「その女は元傭兵でしてね、戦争で負けて奴隷にされたのを買い取りました。この金額でこれほど腕の立つ奴隷はいません。お買い得ですよ」と勧められた。
元傭兵の女奴隷は、トゥデラといった。顔に酷い裂傷が幾つもあるので売れ残っていたという。
剣と盾を使うのと、戦争や国の事情、傭兵の常識などに詳しそうなので、相談役にしたいと思い、金貨7枚と銀貨20枚と高かったが買った。もし、顔にこれほど酷い傷がなければ、かなりの美人なのだろうと想像出来た。
奴隷商を出るとそのまま服屋に行って、トゥデラのシャツとズボンと下着、室内用の服を買い、靴屋でブーツを買った。
次に、武器屋に入り、鋼の剣を買うと、移動の合間にもこつこつと貯めてきた金の残りが、銀貨30枚ほどになってしまった。
メンバーが3人に増えたことで、金を稼ぐ方法に選択肢が増えた。俺とルージーと2人だけなら魔物を狩って細々と稼いでいくしかないが、腕利きのトゥデラが加わったので、護衛の仕事を探すことができる。
ただし、トゥデラの話によると、ルートヒルトの護衛をしたときのように個人的な依頼で護衛をするのではない場合は、商業ギルドに護衛パーティーとして登録して、依頼の斡旋を受ける必要があるとのことだ。
とはいえ、今は、装備も不完全なので、いったん3人で魔物を狩って金を稼いで、装備を完全にしてから商業ギルドに登録しようということになった。
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