第17話 奴隷所有者証明書って?
翌日、ルートヒルトから、3日後に出発すると告げられた。
俺達も出発の準備を始める。携帯食料の干し肉や乾パン、干した果物や野菜などを買い込む。ルートヒルトから食料の支給はあるけれど、実際は、それだけだとかなり物足りない。
薬草や薬も補給し、ルージー用に投げナイフを数本買っておく。
銀貨を入れる革袋も幾つか買い足して、ルージーにも20枚の銀貨を入れた革袋を追加で渡しておく。
「万が一、俺と離れたときに、一時でも凌げるようにするためだ」と言って渡しておいた。
クライムへの帰路は拍子抜けする程、何事もなく終えた。
残りの報酬の金貨1枚と銀貨20枚を受け取った。
今、懐には金貨が7枚以上ある。パーティメンバーを増やすために新しい奴隷を買いたいと思ったが、その前に、ルージーが仲の良かったと言っていた2人の奴隷、ハーフリングとハーフノームの娘をどうするか考えなければいけない。
確かに、今なら2人を同時に買い取ることができる金がある。しかし、2人とも子供にしか見えないのが難点だ。いくら特殊な能力があっても、あまりにも小柄だと戦闘力に劣るし、今回のような護衛の仕事をしようとするときには、依頼相手や同業者に侮られる原因にもなる。
「なあ、ルージー。前に言っていたハーフリングとハーフノームの娘達のことだけどな。俺はこれから護衛の仕事をやっていきたいと思うんだ。そうすると、あの娘達は小柄過ぎる。対人戦闘で大きな期待が出来ないし、依頼相手に舐められる原因にもなるからな」
出来るだけ言葉を尽くしてルージーに説明すると、
「あのとき言ったことは気にしないでください。今回のことで、旦那様のお仕事のことが分かりました。あの娘達は足手まといにしかならないでしょうから、旦那様が気に入った奴隷を買ってください」と言ってくれた。
ルージーが納得してくれたので、俺は金のあるうちに、戦闘用の奴隷を買うことに決めた。
『どうせならもっと大きな街で買った方が、いい奴隷がいるだろう』
クライムの北に行くとリンデン、ラズラと街が続いているという。リンデンはクライムより大きく、このアブハンサ王国の西の要衝といわれるラズラはさらに大きいという。
ルートヒルトに「ラズラまで行くと、奴隷商も多いので、お望みの奴隷が見つかるかもしれないですよ」と言われた。さらに、
「ただし、ラズラのような大きな街に入るには身分証明書が必要ですよ。お持ちですか?」と聞かれた。
「身分証明書?今までの街では、何も言われなかったんだが?」
「それは地方の街だからです。ラズラのような大きな街に入るには、身分証明書が必要になります」
「身分証明書なんか持ってないぞ。どうすりゃいいんだ?」
困った顔をした俺にルートヒルトは、
「それなら奴隷商で、奴隷所有者証明書を発行してもらったらいいでしょう。少し高くつきますが、他に身分証明書の類を発行してくれるところはありませんので」と教えてくれた。
「奴隷商が身分証明書を発行できるのか?」
「奴隷には人頭税がかかります。しかも奴隷の税金の徴税官は、地の果てまで取り立てに来るので有名です。ですから、奴隷を所有しているということは、堅実な納税者であることの証なのです。さらに、所有されている奴隷が正当な扱いを受けていると証言すれば、奴隷商は奴隷の所有者に奴隷所有者証明書を発行することが出来き、それがそのまま身分証明書になります。その証明書を門衛に見せれば、どんな大きな街でも入ることができますよ」
その説明を聞いて、俺はルージーを買った奴隷商に行き、ルージーの奴隷所有者証明書を作ってもらった。銀貨30枚と高かったが、この証明書の持ち主は一般人より格上の扱いを受けるということで、ちゃんと支払っておいた。
まず目指すのはリンデンという街で、クライムから歩いて3日程の所にある。
その街へ向かう街道はよく整備されていて、人や馬車の行き来も多い。
俺たちはそんな流れに乗って、最初の宿場村に着いた。
宿場村は、数軒の宿屋を中心に農家が何軒か集って出来ている。村の周りは丸太の塀で囲まれている。宿屋では大部屋を避け2人部屋を取った。一泊銀貨4枚と高いが、女連れなので仕方がない。
夜は、ベッドでルージーといちゃいちゃしながら時間を潰した。定宿ではないので、それ以上は控えて眠ることにした。宿場村を利用すると安全だが出費が痛いので、それ以降は、野営を挟んでいくことにした。
次の日は朝早くに出発し、途中で街道を逸れて、街道と付かず離れずしながら森の中を進んでいく。
今の俺には、いろいろ課題がある。
一つ目の課題は、戦闘用スキルのレベルを上げることだ。
この世界では、スキルはレベル20が上限らしい。スキルのレベルが10になれば誰もが認める腕前で、15以上になれば達人と呼ばれる域に達するらしい。
しかし、俺のスキルレベルはかなり低い。弓術こそ7だが、剣術、槍術、戦斧術は、いずれも3か4、ようやく素人から脱したレベルでしかない。それでも敵を圧倒出来ているのは、奥の手が相手に見えていないからだ。
2つ目の課題は、風魔法のレベルアップだ。
風魔法は覚えたばかりなので、ウィンドカッターはゴブリンの肉さえ切り裂けないし、防御用のウィンドシールドはちょっと強い風程度でしかない。
繰り返し使って、スキルのレベルアップを図らないといけない。
リンデンに向って野営を繰り返しながら、3日で行けるところを5日かけて小刻みに進む。
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