第15話 雇い主が嵌められた
大盾を体の前に掲げたまま、前から来た1人を奥の手の槍で貫く。すぐにその見えない槍を引き抜き、左回りに払うと、左側にいた奴らは仲間を巻き込んで吹っ飛んでいく。更に踏み込んで、奥の手の剣と戦斧で右側の2人を倒し、さらに目の前の奴を奥の手の槍で2人同時に串刺しにする。
一瞬で5人が倒れた。しかも、俺の攻撃は相手に見えていない。相手には、俺が近づくだけで仲間が倒れるという異常な光景が見えているだけで、防御することも避けることもできない。
俺が踏み込む度に数人がまとめて倒され、横合いから馬車に近づこうした奴らは、アールの矢とルージーのメイスに倒されて地面に転がっていく。
瞬く間に多くの前衛が倒され、後衛の弓兵と魔法使いもほとんど矢で倒されて、30人以上いた盗賊達は一気に数が減り、生き残った者たちは慌てて逃げ始めた。
ライドが、負傷して倒れていた盗賊を痛めつけてアジトの場所を吐かせたが、今は先を急ぐのでアジトの襲撃は見送ることにした。
そこへ、後方に下がらせていた若い2人と馬が戻ってきたので、再び馬を馬車に繋いで出発した。
この日は何事もなく最後の宿場村に着き、翌日の昼過ぎにヤヌツンク砦に到着した。
ヤヌツンク砦に着いてすぐ、俺たちは砦の衛兵に拘束された。
儀式張った服装の男が現れて、いきなり書状を広げると読み上げた。
「クライムの商人ルートヒルト、畏まって聞け。ヤヌツンク城塞の審議官カールスルーの名においてクライムの商人ルートヒルトを捕縛する。罪状は、クライムの商人サドカイ並びにクライムの商人メンデラを言葉巧みに誘って行商に出立させ、盗賊団と語らってその積み荷を強奪し、さらには盗賊団に商人の護衛7名を殺傷させたことである。訴え人は、クライムの商人サドカイ並びにクライムの商人メンデラ。以上である。大人しくお縄につけい」
こうしてルートヒルトは引きずられて行った。
俺たちは雇われた護衛だったので、放免された。
商会の若い店員が宿屋を手配してくれたので、俺達はその宿に泊まることにして、食堂で集まって、これからどうするか話し合っていると、ルートヒルトが放免されて宿屋に入って来た。
「大丈夫だったんですか?」
商店の店員と親戚の護衛が同時に叫ぶ。
「酷い目にあいました」
「疑いは晴れたんですか?」
「領主のテオドーレ様に助けられました。審議官のカールスルーが、サドカイとメンデラから賄賂を受け取って、私を嵌めようとしたようです。カールスルーは盗賊団とも繋がりがあったようで、既に逮捕されたようです。元々、カールスルーとサドカイとメンデラと盗賊団の絡みが疑われていて、内々に調査が進んでいたところに今回の盗賊団の襲撃とカールスルーの強権発動だったので、馬脚を現したというところですな」
助かったことがよほど嬉しかったのか、ナチュラルハイになったルートヒルトは、知っていることに推測も交えて喋りまくっていた。
俺たちも身の危険がなくなったようなので安心して部屋に入った。
いや、俺だけは身の危険が続いていた。通された部屋は3人部屋だったからだ。
「なぜ、アールが同じ部屋なんだ?」
「私がそうしてもらったからよ」
「何を言ってるんだ」
「あなたは私の好みだし、今夜はあなたと寝ることにしたの。それとも私が嫌い?」
ぐっ、絶世の美女と言っていい女性に迫られて、拒絶出来る男はいない、だろう、多分。
「俺は構わないが、あんたはいいのか?」
「ちろんよ。どのみち今夜だけのことだし」
と、アールは先にベッドに入って、俺を手招きする。
そのやり取りを横で黙って聞いていたルージーは
「旦那様、英雄は何人も女を侍らすものです。今夜のお相手はアール様にお譲りします」
おい、ルージー、俺を置き去り去りにするな。
翌朝、若い店員が、ルートヒルトが話があると伝えてきた。
俺がルートヒルトの部屋を訪ねると、椅子を進められた。
「ここまでの分の料金です」
と革袋を渡された。
「お確かめ下さい」
革袋には金貨が5枚と銀貨数十枚が入っていた。
「こんなに?」と言うと
「最初の1日も銀貨30枚の契約に変えておきました。4日分で金貨1枚と銀貨20枚。戦闘が2回あったので、各戦闘の報奨金が金貨2枚ずつとなります」
「有り難い」俺が皮袋を鎧の下に仕舞うと。
「テオドーレ様から盗賊討伐の褒賞金が出ますよ。更に、賞金のかかった盗賊を討ち取っていれば懸賞金も出るでしょう。数日かかることになりますが」
「あんたは、いつまでここに居るんだ?」
「1週間ほどいます」
「ここにいる間に盗賊のアジトを襲撃してもいいか?」
「止めておいた方がいいですね」
「何故だ?」
「盗賊が盗賊とは限らないからです」
「なるほど。ややこしい奴らがいるわけだな。それなら止めておく」
「そうして下さい。暫くゆっくりしてはどうですか?宿代はこちらで持ちますので」
「そうしよう」
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