第5話 護衛を頼まれたぜ
俺は手を止めて足元の盗賊たちを見た。
「止めを刺さない方が良かったか?」
と聞き返すと
「いや、そうではない。数人だけ残してくれたらいい」
「了解した。まず、そちらで捕虜を選んでくれ。その後、残りの奴の止めを刺す」
人殺しは初めてなので内心はビビリまくりながらも止めを刺して回っていたのは、俺が残酷だからでなく、生き残りがいると逆に命を狙われるかもしれないという恐怖心からだ。だが、この強面の局面で軟弱な姿勢を見せると不味そうなので、あくまでも酷薄な態度をとっている。
「助かる」
と、護衛のリーダーらしい男が、周囲に何やら指示をした。護衛たちは手分けして盗賊達の様子を調べて回り、何人かを引きずって後ろ手に縛り上げていく。
盗賊の頭目だったらしい大柄な男は、既に事切れていた。首に俺が奥の手の長剣をねじ込んだせいだ。
その時、馬車の扉が開いて、小太りの男が降りてきた。
死体が広がっている様子を見て驚いていたが
「これ程の数をあっという間に!よほど名のあるお方とお見受けします」
とこちらに近寄りながら話しかけてきた。
「いや、この盗賊とは因縁があってな。潰すために来た所にあんた達が通りかかったので、結果的に助太刀の形になっただけだ」
「なんと、凄腕の賞金稼ぎのお方でしたか。それならお強いはずだ。あっ、申し遅れましたが、私はルートヒルトと申します。商人をやっております」
「俺は、リュートだ」
「ところで、この賞金首はどうされますかな」
「どうするとは?」
「主だった首を街に運ぶにしても大変でしょう?よければ私の馬車の後ろに積まれてはいかがかですかな?街までご一緒いただければ私も心強いというものです」
「いいのか?」
「もちろんですとも。そうと決まれば、早速手伝わせましょう。ライド、この方の賞金首を刈って馬事の後ろに詰めろ」
護衛のリーダーらしき男は頷いて、周りに指示を出す。直ぐに2人の男が死体に近づいて首を切り落としいく。
何だか、話が勝手に進んでいく。
まず、俺は賞金稼ぎじゃないからな。賞金首を集めたいわけでもないし。
しかし、思い違いとはいえ善意で首を集めてもらっているのを止めることも出来ない。それに、賞金首というぐらいだから、賞金が貰えるんだろう。俺は金を持っていないから、この首で金が貰えるなら、この流れに乗った方がいいに違いない。街まで案内して貰えそうだし。
「それは、こちらも助かる。ぜひ力をお借りしたい。ところで、木の上に居た見張りを倒したはずなのでその死体を確認しに行きたい。ここは暫く任せてもいいか?」
「お任せください」とルートヒルト。
俺の剣の腕は一刀のもとに首を落とせるほどではないので、目の前で首を切るのに苦労する様を見せるのは不味い。一旦、この場を離れる口実をつくって見張り兼射手が落ちた筈の場所に駆けていく。
後からルートヒルトが追いかけてきたが、俺は速力をあげたので余裕で引き離し50メートルほど先に転がっていた数人の死体の所に着くと、ルートヒルトに背を向けて、剣で首を切り落としたように見せながら、奥の手の剣で首を切り落とした。持ち物を探り金が入っているらしい小袋をいくつか回収し、3つの首をぶら下げて戻ろうとすると、ルートヒルトが途中で立ち止まって喘いでいる。
「ゼェゼェ。流石に腕利きのお方は違いますな。私はすぐに息が上りました」
「何だ、付いて来たのか。護衛達から離れると危ないんじゃないか?」と聞くと、
「二人だけで話したいことがありまして」と喘ぎながら言う。
「二人だけで?」
俺は立ち止まって首を傾げる。
ルートヒルトは護衛たちに背を向けたまま、
「唇を読まれないよう黙って聞いてください」
『うん、誰のことを言ってるんだ?』と疑問に思っていると、
「護衛の中に裏切り者がいるかもしれんのです」
俺は口を開きかけたが、唇を読まれるという警告を思い出して、口を閉じた。
「報酬を出しますので、単独で私の護衛を引き受けてもらえないでしょうか?」
俺は少し考えて小さく頷いた。
「有難うございます。それなら、私と一緒に馬車に乗ってください。この襲撃は怪しいんです。本当はこの道を通る予定じゃなかったんですが、通るつもりの道で盗賊団の待ち伏せがあると聞いてこっちに回ってきたんですが、その情報を持ってきたのが護衛達でして」
俺は唇を読まれないように顔を下に向けながら、
「護衛は初めての奴らばかりなのか?」
「いつも頼んでいる傭兵たちが、たまたま掴まらず、ライド以外は初めての者ばかりでして」
「ライドというのは信用できるのか?」
「彼は何回か頼んでいまして、信用できると思います」
「他の奴は信用できないと」
ルートヒルトは黙って頷く。
「街まではどれくらいかかる?」
「後3日かかります」
「それまで護衛すればいいんだな」
「お願いします」
「俺は護衛はしたことがない。不意をつかれても仕方がないが、それでもいいのか?」
「居てもらえるだけでも、変なことをする気が起きないでしょう」
「会ったばかりの俺をそんなに信用していいのか」
「馬事の小窓から、あなたの強さを見ました。あなたにその気があれば、私はとっくに殺されていたでしょう。私が今生きているのが、あなたが信用できるという証です」
「分かった。そろそろ戻った方が良さそうだな」
「それでは宜しくお願い致します」
「了解した」
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