第4話 助太刀しちゃったぜ

森の外に出たいのだが、川からあまり離れることなく移動するには限界があって、無理なく森から離れようとすると盗賊の縄張りである街道が唯一の方向となる。

俺は盗賊の追跡を躱す為に、雰囲気が変わる周辺を探索して回っている。

ゴブリンモドキや狼と出くわすことが多く、たまに熊とも出くわす。熊と出くわしたときは、逃げの一択だ。逃げ足が早くなったのか、今のところ、ことごとく逃げおおせている。

悲しいことに、雰囲気が変わる周辺が、俺の生活圏として固定してきた。たまにデカいヘビやワニよりデカい大トカゲに出くわして戦闘になる。カメレオンのように体の色を変える大型のトカゲや2メートルを超えるムササビのような奴、大きな山猫のような奴、デカい亀にも出くわした。

奥の手が増え、2つの腕で槍を持つ手、大盾を持つ手が現れた。今では、やや小さめの熊なら戦えるようになっており、すでに2匹仕留めている。

使う頻度が一番多いのが弓だ。遠くから攻撃できるので、リスクが少ない上に、スキルの矢は、体力がある限りいくらでも出せるからだ。そのせいか、弓術のスキルレベルの上がり方が早い。


スキル 奥の手(短剣、盾、戦斧、弓、剣、槍、大盾術)、短剣術2、盾術1、戦斧術1、弓術3、剣術1、槍術1、大盾術1、気配察知4、生食5、身体強化3


1対1の戦闘で盾が2つも使えると圧倒的に有利だ。身体強化レベル3になって効果が実感できるようになって来た。大型の狼の体当たりを受け止めることが出来るようになっているし、やや小型の熊の前脚の攻撃も何とか受け止めることが出来ている。しかも、押し合いをしても負けない。その間に槍や剣で刺し放題だから、もう楽勝といってもいいくらいだ。

これならそろそろ盗賊団とやりあっても勝てるんじゃないか?と思った俺は、盗賊の縄張りに向かって歩き始めた。

森が切れる辺りにやって来るまでにも何回も獣との戦闘があって、新しい奥の手が増えた。今回の奥の手はスペルブックを持っており、癒やし魔法が使えるようになった。今まで怪我をしても治す手段がなかったのでこれは助かる。っていうか、よく今まで怪我をせずにやってこれたよな。幸運だったとしか言いようがない。


森で数えきれないほど多くの獣を殺してきたので、生き物を殺すことに抵抗はなくなっているが、たとえ相手が盗賊だとしても、人間を殺すとなると平気なのだろうか?そんなことを自問自答しながら森の端までやって来た。

今回は、前に街道に出た場所から大きくズレた場所に出た。

前は迂闊にも街道を歩いため盗賊に見つかってしまったので、今回は街道が見えるか見えないかの距離で、木立の間を縫って隠れながら街道に並行して進んでいる。体の周りに木の枝を括り付け、ゲリラ戦のようなカモフラージュをしている。


暫く進むと遠くの木の上に人がいるのを見つけた。

見張り兼射手だろう。

最初に俺を射掛けてきた奴らの仲間であろうとなかろうと、街道沿いの樹の上に見張りを置いている以上、盗賊か、盗賊に近い奴らに違いない。

更に慎重になって、中腰のまま茂みや樹を盾にしながら街道と並行して進む。

まだ、矢が届く距離ではない。

気配察知を意識して、潜んでいる人間を探る。

木の下の茂みに2人、道の反対側に3人、他の木の上に2人が気配察知にひっかかった。

おかしい。もっと居るはずだが、気配察知の範囲外にいるのか?

盗賊らしき奴等を見張ることができる位置で茂みに隠れた。

暫くすると気配察知に反応があった。

数が増えているのだ。一瞬、見つかったか?と焦ったが、奴等が集まろうとしているのは別の方向だ。

どうやら街道に獲物が現れ、それを見張りが伝えたのだろう。

木の上の見張りが弓を構え、こちらではなく、他の方を見ている。

このチャンスを利用してその集団に近寄っていく。

街道で戦闘が始まったようだ。気配察知では街道に6人ほどの気配がある。

一方、盗賊たちは30人ほどが街道に殺到し始めている。

俺からの距離はまだ100メートルほどある。木の上にいる見張りに気付かれないように、木の陰を伝いながら小走りで近づいていく。

樹の上の射手は居ると面倒なので、隠れた場所から見えない矢で撃ち落とすことにした。

50メートルほどまで近づいて、立て続けに3本の矢を放ち3人が樹の上から落ちてくる。落ちた奴の1人の所に行き、木槍を首に突き刺して剣を奪うと、そのまま、馬車に向かって駆ける。急がないと間に合わないかもしれない。後20メートルほどで隠れながら走るのを止めて全力で走り出した。

身体強化スキルの効果で、100メートル10秒を切る速さで突き進む。その間に奥の手で3本の見えない矢を放ち3人の盗賊が蹲る。

30人ぐらいで馬車を囲んでいた盗賊は、何が起きたのか分からず反応出来ていない。そこに俺が飛び込んで、見える武器と見えない武器を振り回す。手に持った剣で、一番近くの奴の背中を刺し、同時に、左右の奴に奥の手の長剣と戦斧で斬りつけ、1歩離れた所に居た奴に奥の手の槍を突き刺す。その間に奥の手の矢を放って、こちらに向かってこようとした奴を射る。体をくるりと回して右側に居た奴の顔に奥の手の短剣で斬りつけ、我を取り戻して反応してきた奴の突きを見えない盾で逸し、その首に奥の手の長剣で斬りつける。少し離れて構えた奴を見えない槍で倒す。

盗賊の群れに後ろから飛び込んで、一気に10人近くを一瞬で倒したので、盗賊の数はあっと言う間に半分近くに減っている。

俺に向かって矢が何本か飛んできたが、念の為に用意していた奥の手の大盾で防ぐことができた。そのせいで俺の動きが止まったが、振り返って俺に攻撃して来た奴の剣を奥の手の戦斧で叩き落とし、見えない剣を腹に突き刺す。同時に、木の上に矢を射返すと悲鳴が上がり、弓を持った奴が木の上から落ちた。

これで、木の上に潜んでいた射手は4人とも倒した。

手に持った剣で見せかけの攻撃をしながら、奥の手の見えない武器で残った盗賊達を倒していく。もちろん見えない矢も立て続けに放って、少し離れた盗賊も倒していく。何度か攻撃を受けたが、奥の手の盾が2つあるので危なげなく防ぎ切った。

攻め込まれていた馬車の護衛たちも勢いを得て次々に盗賊を打ち取り始めたとき、強そうな大男が長くて太い鉄の棒で、俺に殴りかかって来た。見えない大盾で受けたが、力負けして俺は吹っ飛んだ。

『くっ、猛獣の突撃を食い止めることができる俺が吹っ飛ばされるとは』

油断してこっちに歩いてくる大男の顔を狙って見えない矢を立て続けに射つ。勘のいい大男は最初の矢はよけたが、続けて射った3本が頬や額に突き刺さった。大男がひるんだところに、こちらから突っ込み見えない槍を鎧で保護されていない太ももに突き刺した。大男は鉄の棒を取り落としたので、後は、戦斧と剣で滅多斬りにした。

大男が斃れるのを見た残りの盗賊達は逃げ出したが、素早く奥の手の矢で射って倒していると、襲撃者達は全滅した。

見張りの奴が生き残っていて矢を射てこないか、死んだふりをした奴がいきなり攻撃してこないかと警戒しながら、倒れている奴の首を剣で刺して回っていると、

「ちょっと待ってくれ」と、馬車の護衛らしき男に止められた。

俺が手を止めて首を傾げると、

「助太刀は感謝するが、尋問したいんで、何人か生かしておいてくれないか」と言われた。

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