第5話 異世界魔王と勇者の作り方3
樹「だから、異世界の人たちは生まれたら直ぐに勇者かどうかの判定を受けることになっている」
学「どうやって?」
樹「水晶?で?」
学「なんでそこは疑問形なんだよ。もっとはっきりとしろよ」
樹「そんな事言われてもなあ。でも、勇者を判別する物は確実に有る。はずなんだよ。そうじゃないと、勇者がいると気づかずに幾つもの町や村、下手したら国までもが魔物によって襲撃されてしまうだろ?」
学「そうか、勇者と分かっていれば対処できることでも、分からないと何も出来ないもんな」
樹「そうなんだよ。だから何処の国でも戸籍制度みたいなのは整っていると思うんだ。それこそ奴隷だろうが、貧民街にいるような子供たちでもな。盗賊は分からないけど、それでも子供が生まれたなら調べるだろうな、なんせいつ襲われるのか分からないからな」
学「それじゃあ、勇者と分かったらどうなるんだよ?」
樹「おそらくだけど、一か所に集められて戦闘訓練から野営の方法、魔法、調理、あとは計算方法や各国の法律のような知識、まあ魔王討伐の為に旅をするうえで必要なことを教えられると思うよ」
学「でも、一か所に集める必要は無いんじゃあ無いか?親が冒険者や貴族達なら、親の権限で子供に教育しても良いんじゃないかな?」
樹「それは国よって変わるかもだけど、大抵の国はそこまで国民を信用していない、と思うぜ。なぜなら、16歳からは、見方によっては魔物を引き寄せる兵器。だからな」
学「そうだよな。そいつに人の心が有るかどうかは置いておいて、単純に事実だけを見れば兵器に近い存在だよな」
樹「だからさ、一か所に集めて訓練をしていくんだろ。それにまだ赤子から育てればその国に愛着も湧くしな。いざという時は真っ先に助けに来てくれるかもしれない」
学「だいぶ打算的な理由なんだな。勇者ってなんか格好良いなって思っていたけど、樹の話を聞いていくと勇者が可哀想に思えてくるよ」
樹「まあ、そう言うなよ。俺だってあくまでも憶測の話をしているんだから」
学「そうだよな。悪かった。それで勇者は16歳まではそこで暮らして、それからどうするんだ?」
樹「ああ、勇者は基本的には16歳までそこでは暮らさないと思うよ」
学「えっ、何で?」
樹「今説明した通り、勇者は戦闘訓練を誰から受けるのか?それは冒険者たちからだろ?」
学「まあ、そうなるよな。冒険者であれば戦闘以外にも野営や各国の情報も教えられそうだしな」
樹「そう、それで冒険者は幾らかの給金で勇者を教える代わりに、勇者をスカウトする権利も与えられている」
学「冒険者たちは見込みのある勇者をスカウトして、自分たちのパーティーで勇者を育成していく。そして、それはそのまま魔王討伐のパーティーとなる。って事か?」
樹「そうだよ。そのために各国どころかあらゆる村や辺境の地にでも、冒険者ギルドが有るんだよ。勇者同士のバッティングを防ぐためにと、より強い冒険者を集めるために」
学「勇者同士のバッティング防止は何となくは分かるけど、強い冒険者は探さなくても、別に良くないか?勝手にギルドに来るだろうし」
樹「そうかもな、一応勇者がいない期間も魔物は居るからな。そのためにって感じかな。どちらにしても、全世界、各地に冒険者ギルドがある理由がこの勇者のためにと、勇者の誕生をいち早く知るために存在しているんだ」
学「なるほどね。一国だけならまだしも、全世界の子供たちの中から勇者を探すとなると、確かに冒険者ギルドの存在は大きいな」
樹「それに、各国がお金を出し合い冒険者ギルドを支援しているから、ギルドは中立を保つことが出来ている。国と国とが戦争をしても冒険者ギルドとしては、戦争には参加できないだろう、冒険者個人としては出来ても」
学「冒険者ギルドとしては参加出来ないだろうね。なるほどね。そうやって中立を保っているから誰でも冒険者登録できるし、拒むこともない」
樹「そうそう。それに冒険者の育成もしっかりしているから、いざ勇者が誕生したとしても、迅速に対応できて、しっかりと育成が出来る」
学「ちょっと話戻すけど、その冒険者たちは必ずスカウトするのか?それに、勇者たちはスカウト待ちでしかパーティーを組めないのか?」
樹「そんな事は無いだろうな、どちらも。魔王討伐に興味がないとか、街や国から離れられない事情の人たちも居るだろうし、何より自分たちの命を預けるかものしれないのに、相性の合わない、けど勇者だから、って理由だけではスカウトはしないだろう。それは勇者にも言えることだからな。スカウトされたから絶対って事もないだろうしな。まあ、そこら辺も含めて冒険者ギルドが上手くやってんだろうな」
学「普通に考えればそうか、そうだよな。勇者が冒険者を説得や勧誘してって事も有り得るもんな」
樹「まあな、歴代の勇者一行のその後によるけど、勇者と一緒に冒険して魔王を討伐したパーティーメンバーは、間違いなく英雄扱いされれるだろうしな。力のある冒険者ほど勇者とパーティーを組みたがるだろうな」
学「引く手数多、って程ではないけど、それなりに勇者とパーティーを組むメリットが有るから、余程でない限り16歳を前に全員が冒険に出かけているのか」
樹「そうなるだろうね、16歳まで残るほうが難しいと思うよ」
学「でも、魔王は何年ごとに復活することになるんだ?」
樹「さあ?でも300年くらいが丁度良いんじゃあね?」
学「何でそんな急に投げやりになるの?300年前くらいが丁度いいってどういう事なんだ?」
樹「ああ、100年くらいだと、まだ魔王がいた世界から完全に復興は出来ていないだろうし、それに魔王を知る者がまだ生きてるからな。逆に500年だと間が空き過ぎるだろ。魔王の伝承もそれ程残っていないじゃあ簡単にやられるだろうし、何よりも魔王復活の前に人類同士で殺し合いをして、人類が絶滅間近になっている可能性もあるからな。だから、300年くらいが丁度良いんじゃあない?」
学「言いたいことは分かるけど。何か軽くないか?まあいいか。確かに300年くらいだと完全に忘れられている訳ではないけど、正確に前回の魔王のことが伝えられている訳でもなさそうだしな」
樹「そう、そんな感じ。流石にエルフなんかの長寿の種族たちは、前回の魔王と勇者のことは知ってはいるだろうけど、まあ、そこら辺は作品によってって感じかな?」
学「そうだろな。ちなみに勇者たちは自分たちの運命は分かっているのか?}
樹「えっ、分かるわけないじゃん。学は今自分の人生の使命みたいなの理解しているの?」
学「いや全く。僕に使命があるなら教えて欲しい」
樹「そうだよな。勇者たちも同じだろ」
学「じゃあ、勇者は生まれて直ぐに親から離されて、幼少の頃から戦闘訓練を受け、16歳からは定住も許されない、そんな生活を受け入れているって言うのか?」
樹「受け入れているのか、どうかは、個人の考え方によるからなんとも言えないけど、少なくとも戦闘訓練なんかを受けながらも、愛国心を植え付けられるだろうし、パーティーで同じ生活をしていれば情も湧いてくるだろう」
学「確かに同じ釜の飯、か、自分ひとりなら耐えられないかもだけど、同じ生活をしてくれる仲間がいれば楽しいだろうしな」
樹「楽しい時間もあるだろうな。そんな時間を過ごしていたら、魔物が比べ物にならないくらい強くなっていくのを目の当たりにするんだよ、勇者は。それ程に魔王復活による世界への影響は大きいんだ。だから、勇者たちは皆んなで魔王の討伐を目指すんだ」
学「魔王復活でそんなに魔物達は強くなるのか?」
樹「ああ、間違いなくな」
学「何でそんな事言い切れるんだ?」
樹「だって歴代の勇者たちは必ず一人で魔王を倒している、だろ?一緒のパーティーを組めないだけで、一緒に戦うことは出来るはず。なのに勇者一行のみで魔王を討伐している。確かに、他の勇者たちを出し抜いて先に魔王を討伐した、とも考えられるが、それだと他の勇者たちの伝承が残っていないとおかしい」
学「つまり、数多くいる勇者たちでさえも魔王に辿り着けるのは、数組しかいない。そして、魔王を討伐できるのは一組だけ。他の魔物達はそんな勇者たちを殺せるほど強い。って事か」
樹「そういう事だな。もちろん勇者全員が同じ強さではないから、あっさりやられる勇者も居るだろうし、冒険途中でパーティーメンバーに裏切られる、なんかも有るかもしれない。そういった事も含めて魔王を討伐した者は勇者と称えられるんだろうな」
学「そうだろうな。そうなると勇者って何人くらい居ることになるんだ?」
樹「そうだな、異世界の世界観の規模によって大分変わると思うけどな。まあでも、勇者の出生割合は百万人に一人くらいが丁度良いんじゃね」
学「百万人に一人か。大分少ない気がするけど。そうでもないのか?」
樹「少なくはないと思うよ。まあ、これも規模によるからなんとも言えないけど」
学「じゃあ解かりやすく、現代の地球規模で考えるとどうなる?」
樹「地球規模ね。分かった。まず解かりやすく異世界の全人口を20億人くらいだと想定する。今が80億人くらいだから、魔物の数とそれによって減った人口、後は医療設備なんかも考えて、だいたい四分の一くらい。って事で良いな?」
学「うん、何か想像しやすくなってきた」
樹「それで、その中で百万人に一人だと、勇者の数は2000人前後になるわけだ。確か、200くらい国が有るから、日本には10人前後が勇者って事かな」
学「10人前後かあ。思ったより少ない気がするけど、そんなもんって感じもするな。勇者に簡単に出会えてしまうのもなんか違う気もするしな」
樹「勇者に出会えるって、どっかのアイドルみたいな言い方だな。でもこれで、勇者と魔王、魔素に関しても説明がある程度はついたと思うけど?」
学「そうだな、うーん。そうだよな。でもさあ」
樹「何一人で悩んでいるんだよ。まだ疑問が有るなら言ってくれ」
学「疑問じゃあないけど、勇者と魔王、魔素と分かったけど、じゃあその世界観って言うのか、どんな社会でどんな暮らしをしているのかが気になって来ちゃって」
樹「ああ、そういう事ね。じゃあ分かる範囲内で」
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