2.初対面
第29話
深山家での初めての夜は、なかなか寝付けなかった。
夕食前にうたた寝してしまっていたし、深夜遅くにお風呂に入った所為もあるだろうけれど、多分、寝付けなかった最大の理由は、この大きな洋館と華美な部屋と麗容な人の姿が頭から離れず、緊張が解けなかった所為。
彼の言動を反芻しては、ああすればよかった、とか、この調子でやっていけるのか、とか……それはもう、ぐるぐると考えてしまって。
気がついたら明け方になっていて、少しでも寝ておかなくちゃと思って目を閉じて……。
うっかり目覚ましをセットするのを忘れていて、目が覚めたら、時間は既に午前10時を過ぎていた。
同居生活最初の朝の失態に、心臓をバクバクさせながら身支度をしてダイニングに駆け込んだら、予想していた通り、おじさんは仕事に出かけた後だった。
午前中の光が差し込むリビングダイニングのエアコンのスイッチを入れ、テーブルの上に残されたメモに目を通す。
『コンロの上の鍋のスープを暖め直して食べること。昼食と夕食は冷蔵庫の食材を自由に使ってすませなさい。帰りは遅くなるので、しっかりと戸締まりをして早めに休むように』
綺麗な文字でしたためられたメモには、寝過ごした事と見送りをしなかった事を窘める言葉は無い。
テーブルの上には数個のクロワッサンが入った袋と、1人分のテーブルセット。
うちのお母さんだって、ここまでの事はしてくれない。
まして、午前10時まで寝トボケてた怠け者に……。
「いたれりつくせりな上に……寛大……」
うちの親が、おじさんに私の保護者代理を任せたのも頷ける。
お母さんが言っていた「大丈夫」は、多分、こういう面での事を言っていたんだろう。
あの人に限って、預かった親戚の子供に不快な思いをさせるはずが無い、と。
完璧な保護者代理として、全力で責務を全うしようとするに違いない、と。
なんとなく無条件でそう思わせる何かが、彼にはある。
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