第122話

「は……」




天井を振り仰ぎ、私は息を吐き出した。





目を酷使した所為か、ちょっと頭を動かすだけで目の奥に鈍痛が走る。





庇うようにそっと頭を元に戻し、部屋の中央に視線を送ると、その視線の先では、電気ストーブが素知らぬ顔で朱色の光を発していた。





ケイを闇から引き上げて私の元へと導く魔法のツールだったそれは、もはや、なんの変哲もないただの電気ストーブでしかない。





しかも、電気ストーブ本体から離れた場所は、大して温かくもならなくて……部屋の隅々はいつまでも寒々しくて……。





点けている意味なんて、もう、殆ど無いような気さえする。





ケイがいた頃は、彼自身のぬくもりが温かくて、そんな事にも気づかなかった。





……ううん、違う……。





ケイが部屋を暖めてくれていたから、とかじゃなくて……。





彼がいる事が嬉しくて、楽しくて……部屋の寒さなんて感じていなかったんだ。





寒いのは……多分、心……。






アルバムを開くたびに、名簿のページを捲るたびに、儚い期待は容赦なく裏切られて。





その現実は無情で……虚無感は募るばかりで……。






「なんかもう、負けそう……」





弱音を口にした途端、両目の涙腺が一気に緩む。





ぼやけてしまった視界で、何を見られるわけでもないのに……。





私は壊れた機械の様に、膝の上の卒業名簿をただひたすら捲り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る