第97話

景山さんに追いつめられた瞬間、ケイが人でさえあれば、と、思ってしまっていた。




そうしたら、たちまち虚しさに包まれて……。




それが足枷のようにずっと、私の意識に絡みついていて。




断ち切れなくなってしまっている……。







ケイを『彼氏』に見立てる行為自体が、彼に依存する気持ちを助長させてしまうって解っていた。





それが怖いと思っていたのに、私は、景山さんと対峙している間中、ケイの事を思い浮かべていた。





怖れていた通り、ケイに依存する気持ちは煽られる一方で。





ケイを失えなくて。





でも、失わない為の努力をする、その術もなくて。





誰に認めさせることも出来ない、この脆弱な現実にただ縋っているしかないのだと……思い知らされてしまった。




それなのに、虚しくならない筈がない。




少し前までは幸せな気持ちでいっぱいだったのに……突然の雷に打ちのめされて、奈落の底に落とされた気分。





「はぁ……」





深いため息が、寒々しいトイレの壁に反響する。





鏡に映っている陰鬱な顔の自分から視線をそらし、私は出入口の重い扉を力無く引き開けた。

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