問3:努力の成果は発揮できたのか

第9話

夏休み2週目。生物準備室の鉢植えたちに水をやっていると、ドアのノックの音が響いた。のに、舞さんはゴロゴロとソファーで寝返りを打つだけ。



「お客さん来てますよ」

「哀斗くん出てよ。案内とかお茶出しは助手の仕事だよ?」

「はったおしますよ」



 ソファーにだらりと寝ころびながら僕に指示を出す舞さんをにらみつけるも、彼女はただ何もないようにひらりと手を振っただけだった。クソ、いつかぎゃふんと言わせてやるからな。



「はいはい、どちらさまですか――」

「あ、あれー!?あなたってもしかして私の運命の人☆」

「舞さん、気のせいでした」

「どう見たって気のせいじゃないよね。だいぶ濃い人が来たからって見ないふりはダメだよ」




「アタシの名前はせい!演劇部の1年生だよ☆」

「そうですか、お帰りください」

「最近噂でアイマイ何でも屋の話を聞いて、ご依頼に来ましたーってわけ☆」

「そうですか、お出口はあちらです」



 肩くらいまで伸ばした明るめの髪、イヤリングまでついている。この学校自由だからな、と一瞬現実逃避するがさすがに自由すぎるのでは?

 というかなんだ、アイマイ何でも屋って。絶妙なダサさに初日に見た舞さんのチラシを思い出す。この名前つけた人と舞さん、仲良くなれるんじゃないか?



「アイマイ何でも屋って何のこと?」

「哀斗くんと舞ちゃんだよね?アイト、マイでアイマイ!」

「誰が言ってたんですかそんなの……」

「あ、私が決めたよ☆なかなかセンスあると思わない?」

「全く思いません」



 アンタかよ。ショックを受けた顔で僕の方を見るな。



「次のイベントの主役に選ばれたんだけどさ。それがちょっとね」

「主役って、演劇部か何かですか?」

「んーそんなとこ!」

「でも星ちゃん、そういうの好きそうなタイプに見えるけど?」

「そうなんだよね!そこの陰キャくんとは違って☆」

「は?」



 こちらを見てニヤニヤと笑う星さんに、少しイラっとする。まぁ対人関係があまり好きじゃないのは事実だが、それはそれ。この人よく主役に選ばれたな、と少し失礼なことを考える。落ち着かせるために水でも飲もうと冷蔵庫からペットボトルを取り出した。



「初対面の人にそういうこと言わないほうがいいと思いますよ」

「あれ?怒っちゃった?」

「……一般論を話してるんです」

「あー、よくあるよね。そういう言い訳☆」



 ブチ、と堪忍袋の緒が切れる音が聞こえた気がした。持っていたペットボトルをバン、と机に叩きつけて荷物を背負う。



「え、何してんの哀斗くん」

「もういいでしょ、どうせ僕たちじゃ力になれませんって」

「そんなこと言わないでさ。依頼されてるんだからちゃんと手伝ってあげないと」

「…………めん……さい……」

「は?」



 小さく聞こえた星さんの声に苛立ちを隠さないまま振り返って。ギョッとした。

 ――泣いてる。とても。俯いて小さく肩を震わせながら彼女は泣いていた。



「ごめんなさいぃ……。助けてくれようとしてくださっている方々にあんな態度をとるなんて、アタシってば本当にダメなやつぅ……」



 どう見ても星さん。だけど、どう見ても直前までの彼女の勢いとは違う。一瞬で人が変わったみたいだった。

 固まる僕らだったが、一番早く戻ってきたのは舞さんだった。ポロポロと泣く星さんをぎゅうっと抱きしめてジトっとした目で僕を見る。



「哀斗くんが泣かせたー」

「え、あ、僕のせいですかコレ」

「うぅ……ごめんなさい。アタシただ相談に乗ってもらいたくてぇ……」



 こうなってくると僕の心境も変わってくる。



「アタシ、いつもこうなんですぅ……!」



 コレまで演技だったら、恨むぞ。

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