第11話 背面飛行で決死のゴール 最終戦一位が必須条件に

 ゴール地点には、勝田とゲンジが待ち構えていたが、なかなか江戸前レーシングの機体が現れない。すでに5チームがゴールインしたところであった。不安そうにゲンジが独り言を口にした。

「おかしいなあ。中間地点で3位だったのに。まさかリタイアなんじゃ。・・・」

「いや、GPSはこっちに向かってるみたいです。ほら、ちょうど、来たところなんじゃ・・・」

 二人の視線の先に見えたのは、上下さかさまになって飛行する江戸前1号だった。サイドカーの係長の表情は恐怖に引きつっていた。


「YEAAAA。DJ.DOKANさまの参上だ。道を空けろ!!」


 江戸前レーシングはさかさまのそのままゴールイン。スロットルレバーが故障し正回転側だと出力が最大まで出せなかった。しかし、逆回転させることで、最高速度で飛行させることができたのだ。ただし、この場合、機体はさかさまの背面飛行となる。

 結果は6位。総合順位は3位となった。

 まだ逆転優勝の可能性は残されている。

 唯一、希望が持てるとしたら、同じ設計の機体の桜島レーシングが2回目のレースで1位となったことであった。点数シミュレーションの結果、江戸前レーシングが総合優勝するには第3戦での優勝が必須条件となった。

 チームの雰囲気が暗くよどんだ。


 その数日後の事であった。

 紗良がその日、事務所にたどり着くと平日の昼にも関わらず事務所はにぎやかであった。普段は昼にバイトがあるはずのDOKANの姿があり、それを取り囲むように、勝田、係長、ゲンジなどの主要メンバーが囲んでいた。全員が立って話し込む中、DOKANだけは着座していた。その右足は石膏で固められていた。

「まさか、夜中にライブを入れていただなんて聞いてないぞ。しかも、それで客とトラブルになったのか?」

 ゲンジがDOKANを詰問していた。

「俺がトラブルを起こしたんじゃない。客同士のトラブルだ」

「じゃあ、なんでお前は怪我したんだ」

「俺のライブを聞いてないから、怒って壁を蹴ったんだ。そしたら、その壁が思っていた以上に堅かったんだ」

 それを聞いた係長は怒りをあらわにした。


「あなたはちゃんとアンガーコントロールしなきゃだめでしょ!!」


 今度はゲンジが係長をなだめた。それ以前の話として、アンガーコントロールをしろという話を怒りなから言うのはすこし矛盾があるようだ。

 勝田が質問した。

「1週間後に治るのか?」

「いてて、1週間したら痛みも消えると思います」

 係長は事務的に答えた。

「診断書は全治1カ月です」

 勝田は係長とゲンジの方を向いた。

「今から選手変更は可能だろうか?」

「それは可能です。でも、代わりの選手が・・・」

 パイロット候補はあと山内と犬掛がいたが、第2レース以降、連絡が取れなくなっていた。ここで時間をかけても仕方ない。勝田は決断した。


「わかった。紗良で行こう」


「え、わたし?」

 係長は焦りの表情を浮かべた。

「でもそれだと千代田区の条件が・・・」

「私が責任をとる」

 勝田の一言で、その場にいたメンバーは冷静になって黙り込んだ。最終的な責任者は勝田だったのだ。また、どんな小さなミスも最終的には勝田のせいになってしまう。勝田はそういった立場だったのだ。

「すまない、私はちょっとこれから人に会わないといけない。あとは頼む」

 勝田はそのまま外出していった。

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