第5話 中学生との再会



 いきなりの蹴りに、俺はうずくまることしか出来なかった。


 カメラの電源は切っていなかったので、一部始終を見ていた視聴者たちのコメントが人工音声で読み上げられる。


『今のって、蹴ったのか?』

『怒ったゴブリンのなかに置いてくるって、もう殺人じゃん!』

『ダンジョンのことよく調べずに来るだけでも最低なのに、メンバーを囮にするなんてイカれてるだろ』

『ご愁傷さまでーす』


 好き勝手言っているコメントの声と走り去っていくパーティの背中。そして、迫ってくるゴブリンの群れ。逃げられる要素なんて一つもなくて、恐怖のあまり俺は笑ってしまっていた。


「あははは。もう終わりか……」


 ダンジョンは危険だと分かっていたからこそ、気をつけていたのに。


 最後は、客の無鉄砲さに巻き込まれて死ぬのか。


 一度を死を意識すれば、ダンジョンのことや撮影のことを一から教えてくれた伯父に申し訳ない気持ちになった。あれだけ気を付けろと言われていたのに、自分の身すら守れなかった。


「……ダンジョンで一番危険なことは、あきらめることだよ」


 聞き覚えのある声と共に、俺の隣を走り抜けた者がいた。風と残像だけを残した者の軌道を追うように、俺の視線はゴブリンに向く。


 そこにいたのは、小柄な少年だった。


 岩だらけダンジョンの床をまるで滑るようなスピードで、彼は走っている。ゴブリンたちは懸命に少年を追いかけるが、彼らの攻撃は残像に当たるばかりだ。


『誰だ!いきなり来たぞ』

『早すぎだ!!』

『カメラが壊れたんじゃないのか?』


 コメントが読み上げられている中で、少年は脇差を抜いた。ダンジョンで主流なのは剣や槍であるため、俺は刀を武器にする冒険者を始めて見た。


 抜かれた刀は、少年の動きを阻害しない。


 むしろ新しい翼をあたえたように、少年のスピードがさらに上がっていく。ゴブリンたちは少年の速さにはついて行けず、その刃で次々と狩られていった。


『この速さって……アレじゃないか?』

『いやいや。あの人ってメディアが嫌いじゃん』

『あの人に、一票』

『あの人以外は考えられないって』

『あの人の戦闘スタイルって損だよな。早すぎてカメラに残像しか映らないし』


 すごい勢いで、コメントが流れていく。


 一方で、少年はゴブリンの命を刈り取り続けていた。最後の一匹を刈り取った少年は、ピタリと動きを止める。


「仲間を置いていくなんて最低だよ」


 そんな事を言って、少年は顔をあげた。


 少し長めの前髪が目にかかり、少年は邪魔そうに髪をかき上げる。


 少年は小柄で、とてもではないかダンジョンでよく見るようなタイプではなかった。


 ダンジョンに来るような人間は、もっと体格が良い人間だ。しかし、俺の目の前にいた少年は細身と言ってもいい体格であった。


「さっきは、ありがとうございました」


 そう言ったのは、カツアゲされそうになっていた少年だった。



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