第5話「現実世界からトリップして…」
レンガ造りの建物のある街に出た。周りはどこもかしこも同じような建物ばかりで、確かに自分の住んでいる街ではないことがわかる。花屋、パン屋、カフェ、服屋、雑貨屋…。
「ソルナ地方から綺麗な花入ったよー!そこのご婦人いかがですかー?」
「あら綺麗ね。何本か貰おうかしら。」
「パン焼きたてだよ!おすすめはこのバゲット!今日一上手く焼けたんだ!どうだいー?」
「おかーさん!パン食べたい!」
そんな賑やかな声の中を進んでいくと、大きい広場には噴水もあって、その周りでは風船を売っていた。こんなにも洋風な建物が続いていると、外国のどこかを想起する。
「すご、外国じゃん。フランスとかイギリスとか、ヨーロッパの方。今日はなんかのイベントかな?でも…」
そんなことを呟きながら、私は街を歩いた。街全体がガーランドで飾られていて、どこかのテーマパークでも来たみたいだ。でも何か違和感を感じた。
「そこのお嬢さんっ!風船どうぞ〜!」
「えっ、ありがとうございます…。」
急に話しかけられて声が裏返ってしまった。風船、もらってしまった。(お金かからないのかな?今お金も何も持ってないんだけれど…。)
後からお金を請求されたら困るため、風船をくれたお兄さんに聞いてみた。
「あ、あの!風船ってもらっていいんですか?」
「ん?うん、プレゼントだよ。」
そう言ってお兄さんはニコリと笑った。
「…それにしても君、見ない顔だね。しかも見たことない服だ。迷子かい?それとも—」
「あ…!えっと…」
由良は内心しまったと思った。自分はここの人間ではない、『見ない顔』『見たことない服』と言われてしまった。そうなると、今自分はここでは不審人物だ、バレてしまったらどうなる?
とりあえず由良は問題にならないように、誤魔化した。
「ま、迷子じゃないです。大丈夫です。前にも来たことがあるのでこの街は大体わかってます…。」
「そうなのかい?でも君キョロキョロしてたから、迷子かなって…あ、何か探してる?落とし物した?お店探してる?」
「ち、がくて…」
由良はこの人もの凄く親切だなと思いながら、うまく切り抜けようとしているが、親切が勝って切り抜けることができない。だんだん周りの人から私に視線が集まっている…。
「もし何か困っていることがあるのなら言っていいんだよ?あ、そうだ前に来たのはいつ?ここ数年でこの街も変わったからね、教えるよ?」
このお兄さん、優しい、優しいのはわかる。まて、優しいのか?ここまでくればお人好しに入ってくるのではないだろうか…。由良はどんどん自分に集まってくる視線に耐えられなくなって、風船を持って広場から走って逃げた。お兄さんは待ってと言ったが追いかけてこなかった。
自分は何も悪いことはしていない、けれどさっきの視線を見てしまったら、周りの目がないところに逃げたくなる。私は隠れられる場所を求めて走った。
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