世間を欺け!文字に呑まれろ!
さくらん
前書き
小説のコンクールに落ちて、しばらく月日が経った頃、入院中の私に母からこんな話が入った。「翼出版社の方で、巴に直接会って話がしたいという方がいるの……。どうする?」と。心身ともに回復し、退院日が近かったということもあり私は、まぁいいか。という軽いノリでオーケーした。退院してしばらく日にちが経ち、私が自由に連絡取れるようになりお互い都合のいい日時や待ち合わせの場所を決めて合流して今に至る訳だが、コンクールに落ちたもんだから、「小説書いてください!」とか「是非。うちで出版しましょう!」と言われると思ってなかったし、むしろそれの斜め上いく話が飛んできて、ただいますごく混乱している。
「しょ……所属なんて……。果たして私に翼出版社様に貢献できるか自信が……。」
「フリーランス生活をまだなさるおつもりですか?お母様も心配なさってましたよ。いつまでこんな生活をするつもりなのか、今はまだ若いからいいけど心配ですと。」
痛いところを突いてくるな……。でも小説家は基本、フリーランスでしょうが……。
「それに、所属と言いましても、条件があります。」
「えぇ……。なんかすんごいノルマとか課せられるとかじゃないですよね……。」
「あぁ、いいえ。そういったものは、ございません。締め切りさえ守ってくだされば。」
「じゃあ、一体?」
「はい。あなた様には五十嵐 獅郎先生の代わりに小説を書いてもらいます。」
知らない名前に思わず、唖然としてしまう。え……誰?
「知らないんですか?!あの、五十嵐先生ですよ?!よく、ベストセラーとかでテレビや新聞で話題になってません?!」
「ごめんなさい。あまりテレビは観ないもので、疎くて……。あと新聞は気になる見出ししか見ないので……。」
「えぇ!よくアニメ化とかドラマ化とかしてますよ?本当に知らないんですか。」
「作品は、多分見たことあると思いますがあまり作家さんの名前みないもので……。それでなぜ、代わりを?」
その問いに彼女は少し下を向き、少し悲しそうな顔をして呟く。
「死んでしまったんです……。自殺で。五十嵐 獅郎はペンネームなので世間には死んだと出ていません。五十嵐先生も翼出版社に所属してる小説家でした。弊社も彼に支えられていましたが、亡くなってしまったので今、翼出版社では混乱に陥ってます。あなた様の作品には五十嵐先生の作品となにか似ている気がしたんです。もしかしたらと思い、ご連絡させて頂きました。」
そう呟くと、彼女は私の手を取り続ける。
「どうか、五十嵐 獅郎として小説を書いていただけないでしょうか。小説家としての五十嵐 獅郎が死んだら翼出版社は、大打撃で最悪、倒産になりかねません!」
「でも、私そんな、凄い人の代わりになんて……。」
「なれます。あなたならなれます。あなたの作品と五十嵐先生の作品はなにか似たようなものを感じます!弊社も全力でサポートします!」
そう言い、彼女は「お願いします。」と目の前でお辞儀をした。ここまでされると、私も断る勇気が無くなり、白旗を上げた。
「……分かりました。やるだけやってみます。」
「本当ですか!」
顔を上げ、彼女はパァーっと笑顔になる。そしてカバンからケースみたいなものを取りだし、一枚の名刺を私に向けた。
「私、葉山 楓と言います。よろしくお願いしますね。五十嵐先生。」
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