07 ステータス
ギルド――そこは冒険者達の活動の中心となる組織。
冒険者の登録、依頼(クエスト)の管理および斡旋を行っている。先程、訪れた酒場もギルドによって経営され、ギルドと併設することによりこの世界における最大の飲食チェーン店としての顔も持っている(ついさっきランカさんから聞いた話だ)。
酒場は人で賑わい、先程まで虫の息状態だった人たちも何事もなかったかのように酒を飲んでどんちゃん騒ぎをしている。
「ついさっきまで死にそうな状態だったのに……」
「回復魔法によって酒の体へのダメージは軽減できる上に、女神様の恩恵で強化された教会の回復魔法を使えば二日以内なら酒の体への悪影響はゼロ。だから酒場はだいたい教会の近くで営業しているんだよ」
話を聞く限り凄く罰当たりなシステムだ。宗教ってもっと禁欲的だったり清貧が美徳とされていたりするものではないのだろうか?
「女神教では別に酒は禁止されていないからね。日々楽しく生きること、それが優しさに繋がり、世界の平和に繋がる――それが女神様の一番の教えだよ」
なるほど、かなりおおらかな世界観の宗教らしい。
その上酒の後遺症も治してくれるわけだから酒飲みからの信仰は厚いに違いない。ヒイラギさんは既にコップを交換してもらい新しい酒を飲み始めていた。酒のダメージを回復したとはいえ、飲んだものの体積は、一体どこに納められているのだろうか。
酒場の横にあるギルドのスペースにはほとんど人がいないが、受付のカウンターにはギルドの従業員らしき人物がうとうとしながら座っている。
俺たちが近づくとその人は目をこすりながら顔を上げた。
「こんばんわランカさん。こんな時間に来るとは珍しいね。なにかクエストを受けるのかい?」
ギルドの受け付けに座っていたのは小学生程の身長をした髭の生えた男だった。手足が短くずんぐりむっくりでありながら筋肉質というアンバランスに見える体型をしている(後から教わったがドワーフという種族らしい)。
丸眼鏡の奥の目は細長く、好好爺といった感じの印象だ。
「久しぶり、ヘミングさん。今日はクエストじゃなくて、新人冒険者の登録をしに来たんだ」
「後ろの彼かい? この街では見たことがない顔だね」
「ヒイラギと同じで別の世界から来た転移者で、さっき加護を受けて来たばかりなんだ。どういったステータスになったのかを確認したい」
「ほう。では、冒険者登録の前にステータスの確認からしようかここに手をかざしてくれ」
そう言ってヘミングさんがカウンターの上に出したのは、魔方陣のような模様が刻まれた四角い板だった。これがステータスを確認するための装置ということか。
一体先程の女神様からの加護で俺はどんな能力を得たのだろう。
野球ばかりの生活だったとはいえ小さい頃には多少は漫画やアニメを観ていたので、特別な力を手にいれるという展開に期待感がないわけではない。
俺は胸を高鳴らせながら手をかざした。
「……」
胸を高鳴らせながら手をかざした。
「……」
なにも起こらなかった。
その場にいる全員が沈黙しているせいで酒場の喧騒がやけに大きく聞こえる。
「これ故障しています?」
「いや、故障するような代物じゃない。手をかざしたものの魔力を読み取り、ステータスを表示するという仕組みなんだが。加護を受けたのは間違いないんだね?」
「シスターが嘘をついたのでなければ」
「ふむ。じゃあちょっとこれを殴ってみてくれ」
ヘミングさんが新たに出してきたのは分厚い鉄の板だった。さっきの道具のように魔方陣が描かれているわけでもない、一見ただの鉄の板にしか見えない道具だ。
「これに手をかざすんですか?」
「いいや、ただの鉄板だ」
本当にただの鉄板だった。
「加護を受けていて、高ステータスだった場合これぐらいへこませられるはずだから、試しに殴ってくれ」
そしてすごく原始的な方法だった。
こんな鉄板を殴ったら怪我してしばらくはボールを投げられなくなってしまいそうだ。俺は大丈夫かと心配しながらランカさんの方に視線を向けた。
「心配要らない。多少の怪我なら私が治す」
ランカさんがそう言うのならやるしかないだろう。
俺は覚悟を決めつつも、躊躇しながら鉄板に向かって拳を振り下ろした。
ズドーーン!!
大爆発が起こったかのような音が響き渡り、鉄板が割れるどころかそれが置かれていたカウンターを破壊――するどころか、床に巨大な大穴が空いてしまった。
その衝撃で酒場の客や店員も倒れてしまい、俺の後ろにいたランカさんやヒイラギさんが目を丸くし口をポカンと開けていた。
その場にいる全員が唖然とし、誰も言葉を発さない。
ミシミシッ!
不吉な音が店内に響き渡った。
「やばい! 崩れるぞ!!」
先程の衝撃で、店全体にヒビが入り崩壊しかけていた。
酔っぱらい達は一気に酔いが覚めてしまったのか一目散に店から脱出し、俺たちやギルド・酒場の従業員たちも急いで店の外へと避難する。
全員が避難した後、ギルドと酒屋の建物は見事に崩れ落ちた。
翌日、瓦礫の撤去の際に、使用者の魔力を使って他人のステータスを見るという旧型の測定器(魔力消費が激しいため、現在はあまり使用されない物らしい) が見つかったので正式にステータスを測定してもらった。
レベルは45――かなりの高水準で、同じレベルの冒険者と比べて攻撃の数値がかなり高いそうだ。しかし、異質な点があったらしい。
魔力0。
デメリットスキル 魔法適正0
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