第12話 アークアカデミアの生活が始まった。

 背中を向けて座り込む彼女にそっと近づいていく。


「なあ姫宮、元気出してくれよ。謝るからさ」

「ふん、どうして信也君が謝るのさ」

「すねるなよ」


 表情は見えないがご機嫌ナナメなのが声から分かる。


「俺は良かったと思うぜ? ぽわ~ってなった時うわぁってなったもん」


 ふわっとした感想しか出てこない。


「でもさ、でもさ、そんな能力がなんの役に立つっていうのさ」

「うーん……」


 腕を組んで考える。自分と他人の人差し指をくっつければ光る能力。これの使い道は果たしてあるのか。けれどその光を見て驚いたのは事実だ。


 それで思い付いた。


「たとえばだけど、アイドルになったらファンとの握手会とかあるんだろ? その時に握手の代わりにしてみれば盛り上がるんじゃないか?」


 さすがに厳しいか? 演出として地味過ぎるだろうか。


「そうか! その手があったか!」

「うお!」


 姫宮が勢いよく立ち上がる。同時にくるりと振り向いた。


「私の異能(アーク)にそんな使い道があったとは! 姫宮一生の不覚ぅ!」

「大げさだな」


 姫宮は拳をぎゅ~と握りながら悔しがっている。しかしそこにはさきほどまでの陰はまるでない。


「いや、なんかよく分からないけど、元気になってくれたようで嬉しいよ」

「ううん! 元気じゃないよ、超元気だよ! よーし、絶対にアイドルになってこの異能(アーク)でファンのみんなを驚かせてやるぞー!」


 姫宮は「えい、えい、おー!」と片手を青空に振りかざしていた。


 そんな彼女を見ていると自然と笑みが浮かんでくる。彼女は落ち込んでいるより明るい方がいい。


「すごいね、信也君」

「ん、なにがだ?」


 彼女は青空を見上げている。


 彼女の空気は、とても澄んでいた。


「諦めなければ道は開ける。自分を信じる心、人間の可能性」


 彼女の顔が信也を向く。


「ありがと。私助かっちゃった」


 穏やかな表情だ。彼女の言葉に信也は小さく顔を横に振る。


「いいや。助けられたのは俺の方さ」


 二人は見つめ合い、小さく笑った。


 人のいない屋上、春の陽気、穏やかな風。


 二人はしばらくここで話し合った。


 友達同士の談笑を。

 

 それから二人は急いで教室に戻った。その甲斐あってか説明会にはなんとか間に合い胸をなでおろす。教室の前には牧野先生が立っていた。


「皆さん初めまして。一年二組を担当することになった牧野萌です。名前では呼ばないでください、嫌いですので。それでは簡単にここでの生活ルールを説明します。まず皆さんは異能(アーク)をお持ちのはずですが、使用には制限があり、使用する際は学園内、かつ被害が出ない範囲でお願いします。もし違反した場合は最悪異能(アーク)剥奪の上退学処分となりますので注意してください。この手の違反者は少なくなく、今朝も事件が一件発生しており一人が三か月の停学処分となっています。皆さんもそうならぬよう気を付けてください」


(やばい、俺のことだ)


 信也はひやりとした。


「それとここアークアカデミアは異能研究を行なっている学園です。皆さんは学業とは別に異能研究にも協力していただきます。とはいえ難しいことはなく、パーソナルデータの収集が主になるでしょう。もしくは個別に研究対象になることもあるかもしれませんが、そうした場合はその生徒に直接連絡がいきますので最優先で研究協力に当たるようにしてください。それによる単位は保障します。また好ましくはありませんが辞退も可能です。特殊な学園で不安もあるでしょうが基本的には普通の学園と思ってもらって大丈夫です。もし異能(アーク)に不安を覚えた方がいらしたら医療室へ。異能研究者もいますのでいろいろと質問するとよいでしょう。アークアカデミアの概要は以上です。では、次に施設の説明を行います」


 その後も牧野先生からの説明が続く。しかし説明会自体は午前中には終わり、今日の日程はこれで終わりとなった。


 新入生としての一日目が終わる。


 アークアカデミアの生活が始まった。

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