第11話 ありがと。私、助かっちゃった
二人は一緒にフェンスにもたれて青空を見上げる。そこに暗い雰囲気はなくこの青空のように晴れた空気が漂っていた。
「なあ、聞いていいかな。どうして姫宮はアークアカデミアに入学しようと思ったんだ?」
ふと思い隣に顔を向けてみる。質問に姫宮も顔をこちらに向けた。
「私が入学した理由? ふふふ~、知りたい~? ならば教えよう!」
姫宮は「とう!」と信也の横から正面にジャンプすると、くるりとその場で一回り。制服のスカートがふわりと浮かぶ。
そして姫宮の正面が信也で止まった時、姫宮は恥ずかしそうに笑っていた。
「私、アイドルになるのが夢なんだ」
「アイドル?」
「うん!」
はにかんだ笑顔で、姫宮は自分の夢を語った。
「昔から憧れてたんだ、アイドルになること。歌を歌って、それを聞いてみんなが笑顔になるんだ。私の歌で元気になってくれたり勇気を持ってくれたら、とっっっっても嬉しい! そんなことが出来たらいいなって」
夢を語る姫宮の顔は輝いていた。子供のように無邪気で純粋な笑顔がそこにある。
その、眩しいほどの可能性に満ちた顔。信也は温かい気持ちになった。
「それで体も鍛えてたのか」
「アイドルは歌うだけじゃなくてダンスもあるからね」
姫宮はニッと笑いながらピースサインする。正門から体育館まで走り切ったスタミナの謎が解けた。
「アイドルと言ってもいろいろあるけど、異能(アーク)を持ってるアイドルは特に人気が高いんだ。だから私はアークアカデミアを志望したの。夢は一番のアイドルになること! それが、私が選んだ理由なんだ」
「そっか」
彼女の気持ちに信也は小さく、だけど力強く頷いた。
「姫宮ならなれるさ。俺応援するよ、姫宮のこと!」
「ほんとに!? やったー! ファンゲットだー!」
その場で跳んで跳ねて姫宮が喜んでいる。本当に子どもみたいだ。
そんな姫宮を見つめながら信也はさらに聞いてみた。
「そういえば、姫宮の異能(アーク)はどういうものなんだ?」
彼女のランクがFだというのは知っている信也だがその中身までは知らない。
「んもう、仕方がないな~。信也君には特別に教えてあげるね」
上機嫌な表情で姫宮が近づいてくる。そしてなにをするかと思えば、人差し指を立て信也にゆっくり近づけてきたのだ。
「私が人差し指を近づけるから、信也君も人差し指を私の人差し指にくっつけてもらえる?」
「? 分かった、人差し指同士をくっつければいいんだな?」
意図が分からないが言われたとおりにしてみる。そして、二人の人差し指がゆっくりと近づいていった。
(いったいなにが起きるんだ?)
固唾を飲んで見守る。この指先同士がくっついた時なにが起こるのか。それはまさに未知との遭遇。この指がくっつけばまだ見ぬ奇跡が起こるのだ!
ついに指先がくっついた。
デデーン!
「おお! 光った!」
ピカ~!
二人の指先、そこからほのかな光が灯っていた。不思議な光が指先を包む。だが指先はまだ光っただけだ。これからさらになにが起こるのか。信也は期待しながら見つめ続ける。
だが、次がなかなか起こらない。
「…………」
「…………」
「…………」
「それで?」
「なにが?」
「ほかには?」
「…………」
聞くが姫宮は答えない。
「もしかしてだけど……」
「…………」
「……これだけ?」
「うん」
「え、これだけ!?」
「うわあああああああああああ!」
その瞬間、姫宮が反対方向に猛ダッシュで逃げていった!
「ごめん、ごめん姫宮! いや、べつになんていうか」
「いいよ! そうだよ! これだけだよ! 普通これからなにか起こると思うじゃん? でもこれだけだよ!」
姫宮はフェンス際まで走ると座り込んだ。
「私の異能(アーク)は自分と他人の人差し指をくっつけたら指先が小さく光る能力だよ~。役に立たないからランクFにされたんだよ~。うう~」
「そ、そうだったのか」
(異能(アーク)には詳しくないけどそんな能力まであったのか)
信也もまさか同じ異能(アーク)でもこれほどの差があるとは思わなかった。
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