第5話 侍女がかたる不適切な物語②
おそらく
「命には命……とは、こういうことだったのか。後継を得るために母の命を奪うなど、なんと恐ろしい
「運命は決まっていた。数日、拷問のような苦しみにのたうちながら死ぬか、いっそひと思いに死ぬか。われは慈悲をあたえたのだ」
「なんという、お、恐ろしき
夫人の懐妊中、
ただ、
多くのものは、
天祥さまの母上は屋敷内で人望があり、お優しい方でもございました。
その上、もともと王族の血すじをひくお家柄。
一方の
優しい本妻をないがしろにして、愛人に夢中になるあまり世継ぎを産んで用無しになった夫人を殺した。
屋敷では、そんな噂が広まってございました。
噂や中傷が激しくなるなか、
その後におきたことを考えますと……。
わたしめは
真実のところ、
そのためでしょうか、幼い天祥さまを溺愛なさっておられました。
それは夫に顧みられない多くの妻がそうであるように、夫に似た息子に愛情のすべてを注ぎこむことと似ておりました。
酒浸りで、でっぷりと太った
それから、三年の年月が過ぎたのでございます。
あれは、いつの頃からでございましょう。
悲しいことに、わたしめでさえも夜は遠ざけられましてございます。
夏の終わりにございました……。
夜半過ぎになって雲行きが怪しくなり、激しい風とともに雨も叩くように降りだしました。まるで天から洪水が押し寄せてきたような、恐ろしい豪雨にございました。
わたしめは
門番もいない屋敷で、
門戸が風にガタガタと激しく鳴っていました。
横殴りの雨が激しく、びしょ濡れになりながら、わたくしめは門から内部にはいりました。
稲光が周囲を照らし、爆発するような雷音がしたときには、恐怖のあまり思わずその場でうずくまってございます。
その時、御寝所の内部が青白く輝いているのに気がつきました。
「き、
何かがいる。
それは確信に近いものにございました。それゆえに、戸板を開けることができませんでした。
喉に何かが詰まったかのように声もでず、足が鎖に繋がれたように動くこともできず……。
激しい風に
わたしめは衝動的に、その隙間から中を覗いておりました。ほんの短い、いえ、おお、それでも見てしまったのでございます。
最初に……、最初に見たのは、あの、青い、青く銀色に輝く長い髪にございました。
さらさらと美しい髪が揺れ、そのあいだから、横顔がちらりと見えましてございます。
それは、神々しいまでに整った横顔をしておりました。
倦んだように憂いを秘めた切れ長の目。鼻筋は完璧に整い、細い唇は半ば開き、白い衣に身を包んだそれが、身になにもまとわぬ
わたしめは恐ろしさに震え、その場から逃げだしておりました。
そうして、
幼い天祥さまは、それが父親の子であると疑うこともなく信じておりましたが。
「この子を秘密に。なぜなら、あなたが守るべき子なのだから。深く思いを抱きなさい」とも、「この子を愛するのが、あなたの運命」とも。
幼い天祥さまに、
そんな折には、必ず
「この子が生まれたら、守り愛しぬくこと」
それは呪文のように繰り返されてございました。
美しい
半年後、銀色にちかい薄青色の髪を持つ赤児が、この
それが大殿に知られるのに時はかかりませんでした。
「なんという不祥事だ……。おぞましい」
大殿は激怒し異界のものと契ったとして、
わたしめは赤児を抱いて逃げのびました。
「この子を斎宮へ。かならず逃げ延び届けなさい」
斎宮で
そうして、あなたさまは守られたのでございます。
後に聞きましたところ、
わたしめには燃える火のなかで笑う、あの方のお姿が目に浮かぶようにございます。
「おそろしや」と、
人はその表面的なものでのみ人を判断するものにございます。
*************
庭木がざわざわと鳴っていた。
すべてを話し終えた平緒は話を語り終えるとカクンと身体が折れた。
まさに、それは折れたというに相応しい様子で、夜鳴媛はナカテに目配せした。
平緒は、すでに人とは言えない何かになっていた──。
(つづく)
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