第14話 量産機

 1979年4月に始まった機動戦士ガンダム第一作目。


 敵が宇宙人や地底人ではなく同じ人間であり、政治や地政学的な軋轢あつれきが原因の戦争を描いたこと。

 スペースコロニー、モビルスーツ、ミノフスキー粒子等のSF的ガジェットや演出をロボットアニメに取り入れたこと。

 偶然同じ戦艦に逃げ込んだ軍人と避難民の群像劇を物語の中核にしたこと。

 それまでの子供向けロボットアニメにはない数々の新要素を打ち出したまさに革新的な作品であったことは論を待たないが、我々模型畑の人間からすれば、その革新の最たる要素は「量産機」と「専用機」の登場であろう。(*個人の感想です)


 同スタジオ、日本サンライズの直前の作品、1977年10月から1978年3月まで放映されていた「無敵超人ザンボット3」を例に見てみよう。


 主人公である勝平かっぺい宇宙太うちゅうた恵子けいこの三人はかつて侵略者に母星を滅ぼされ、地球に逃れて来たビエル人の末裔まつえいである。そしてそのビエル星を滅ぼした侵略者「ガイゾック」がついに地球にもやってくる。ガイゾックが送り込む侵略用巨大機怪獣「メカブースト」。勝平たちはビエル星の科学が生んだ合体ロボ「ザンボット3」に乗り込んでガイゾックに立ち向かう──。


 とまあ、ちゃんと観るとシナリオ面等でのチャレンジはある意欲作なれど、全体としては、いわゆるスーパーロボット系のフォーマットを踏襲とうしゅうしたおもむきだ。


 このザンボット3が終わり、翌週から始まったガンダムのあらすじが以下である。


 人類が増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになってすでに半世紀。

地球のまわりの巨大な人口都市は人類の第二の故郷となり、人々はそこで子を産み、育て、そして死んでいった。

 宇宙世紀0079。

地球に最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り地球連邦政府に独立戦争に挑んできた。

 この1ヶ月余りの戦いでジオン公国と連邦軍は,総人口の半数を死に至らしめた。

 人々は、自らの行為に恐怖した。

 戦争は膠着状態に入り、8ヶ月余りが過ぎた。


 サイド7の少年アムロ・レイは、ジオン軍の奇襲をきっかけに偶然連邦軍の新型モビルスーツ・ガンダムに乗り込みパイロットとなる。

 戦火を生き残るため、戦艦ホワイトベースで少年少女たちとともに軍人としての戦いを強いられていくうちに、やがてアムロは“ニュータイプ”として覚醒していく──。


 急にどうした?


 それはいいとして、敵が毎週違った怪獣メカを送り込んでくる異星人から、人間が運営する軍隊になったことで、敵の主力メカは戦車や戦闘機のように「同じタイプのロボ」が冒頭から複数体、なんなら宇宙空間でフォーメーションを組んで出てくるものへと変化した。

 史上初、ロボットアニメにおける敵主力ロボットの「量産型」「量産機」の本格登場である。

 それがジオン軍の「ザク」だ。

 そして大量に出て来てバタバタやられる文字通り雑兵ぞうひょうの量産型ザクに対し、銃撃をかわし、とらえたスコープから消え、魔法のように接近して主人公ロボに強烈な一撃を見舞ってくるエース機が登場する。デザインこそ量産型ソックリだが、赤く塗装され、頭部に指揮官機用の一本角のようなアンテナを付けた「シャア専用ザク」──いわゆる「シャアザク」だ。


 ホワイトベースのオペレーターが叫ぶ。

「こんなスピードで迫れるザクなんてありはしませんよ! 1機のザクは、通常の3倍のスピードで接近します‼︎」

 戦闘で負傷し、簡易ベッドから指揮を取っていたパオロ艦長が艦長代行の若い士官、ブライトを呼ぶ。ブライトが驚く。

「えっ! 赤い彗星のシャア!?」

「ルウム戦役せんえきでは奴一人の為に五隻の戦艦が沈められた……奴と戦ってはならん、に、逃げろ……‼︎」


 高速でホワイトベースに迫る赤いモビルスーツ。

 コクピット。パイロットの仮面から覗く口元が不敵に微笑む。

「見せてもらおうか。連邦のモビルスーツの性能とやらを」


 いや、これはしびれるって。

  一番欲しいのはガンダム、次に欲しいのはシャアザクになるって。


 だが。

 だがである。

 我々はいずれ気がつくのだ。

 自分が、アムロ・レイでも、シャア・アズナブルでもないことを。

 そして理解するのだ。

 シャアザクは普通の量産型ザクがいるから輝き、ガンダムだけでは戦争には勝てない。

 戦いを支えているのは「その他大勢」なのだということを。


 ギリシアの史家、プルタルコスは言った。

 人は主役機に目覚め、カスタム機に恋をし、量産機と結婚する、と。(言ってない)


 そう。

 歳を重ねるごとに、その他大勢の「量産機」がたまらなく愛しくなるのだ。

 設定に遊びがなく、自分が乗れるような機会が一切ないガンダムやネームドキャラ専用機に比べ、「もしかして自分が乗ってるかも」が想像しやすいからかもしれない。

 主役機やカスタム機よりも、より詳細に、より解像度高く自分を反映しやすくなるからかもしれない。

 エースパイロットたちのハイスペマシンの性能に物を言わせたド派手な活躍よりも、機体の劣る性能を知恵と経験でカバーして戦うベテランパイロットのカッコ良さが、分かるようにからなるかもしれない。


 量産機を作る時、自然に想う。

 もし自分が乗るならどんな機体だろう。

 配属はどんな場所で、機体の来歴はどんな感じで、上官や部下はどんな感じで……。

 そして量産機には、それを全て受け入れるふところの深さがある。

 パーツを工作する掌に、指先に、無限の想像イマジネーションが宿る。

 それが「量産機」だ。


 そして2019年6月。

 ついに──そんな俺たち熟し切ったモデラー達の思いを知ってか知らずか──シリーズ商品の全てが量産機という夢のようなSFロボットプラモデルレーベルが誕生した。

 30MM。

 サーティ・ミニッツ・ミッションズである。

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