第33話

 棚から出てきたぼた餅を完食した明日花は大変上機嫌になった。


 どうやら不機嫌の原因は腹が減っていたことだったらしい。


 知らんけど……。


 ま、まあとにもかくにも明日花の機嫌が戻ったのは良いことだ。上機嫌そうな明日花に「ゲームでもするか?」と尋ねてみると「おうっ!!」と答えたので、俺たちは明日花の部屋へと向かうこととなった。


「おい祐太郎っ!! 右側の敵は私がやるから、お前は左側の敵をやれ」

「おう、わかったよ。あ、明日花、アイテムが落ちてる」

「これは祐太郎が取れ。お前の方がHP減ってるだろ」

「じゃあ遠慮なくっ!!」


 明日花の部屋にやってきた俺たちは久々にシューティングゲームに興じることにした。


 普段はレースゲームや格ゲーをすることが多く、明日花に負けては『まだまだだなっ!!』と煽られることが多いが、今日は協力プレーなので煽り煽られの心配はない。


「おいおい祐太郎、まだ倒し切れてないのか? しょうがないから私が掃除してやる」


 前言撤回だ。やっぱり明日花はゲームを始めると俺を打ち負かそうというマインドになるようで、それはシューティングゲームでも同じだったようだ。


 明日花に煽られつつも必死でプレイしながら俺は思う。


 なんだろう……すげえ懐かしい感覚だ……。


 たった一、二週間一緒に遊んでいないというだけなのに、こうやって気遣いすることなく明日花とゲームをするのはとんでもなく久々のように感じてしまう。


 やっぱり明日花と遊ぶのは最高に楽しい。


 そんなことに今更ながら気がつきながらも、彼女とプレイをしているとあっという間に最終ステージまでたどり着いてラスボスを倒した。


「やったぞ祐太郎っ!! ノーコンテニューだぞっ!!」

「ってか、なにげにノーコンテニューって初めてじゃねえか?」

「ああ、だって祐太郎が最終ステージ前のジェットコースターに乗った敵に必ずやられるからな」

「あ、あれは何というか動きが速すぎて液晶だと見づらいんだよ」

「また言い訳が始まった。私は液晶でもしっかり対処しているぞ」


 なんて得意げに握りこぶしを見せる明日花だった……のだが。


「なあああああっ!?」


 と、唐突に明日花は叫び声を上げて頭を抱え始めた。


「な、なんだよいきなり……」

「う、うっかり楽しんでしまった……」

「は、はあっ!?」


 急に叫んだと思ったら、こいつなに言ってんだ?


「なんだよ……楽しんじゃマズいことでもあんのか?」

「だ、だって、それはその……」


 と、なにやらはっきりとしない明日花。


 なんだこいつ……と、首を傾げているとふと床に置かれた明日花のスマホが光る。


 反射的にスマホへと顔を向けると、そこには予想外の人物の名前が表示されていた。


「ん? 吉田?」

「はわわっ!?」


 吉田から明日花に連絡とは珍しい……と、思わなくもなかったが、よくよく考えてみれば元々明日花は今日吉田と遊ぶ約束をしていたのだった。


 もしかしたらそのことを謝る電話をかけてきたのか?


 なんて考える俺だったが明日花はなにやら顔を青ざめさせている。まるでそこに表示された吉田の文字に怯えるように……。


「で、出ないのか?」

「で、出る……」


 そう言うと明日花はスマホを手に取ると「ちょ、ちょっとそこでゲームしてろ」と俺に言い残して部屋を出て行ってしまった。


 いや、なんでこんなにびびってんだよ……。


 とりあえず一人部屋に残された俺はスマホを手に取ると適当にSNSの確認をしたりネットニュースを眺めたりしていたのだが。


「はわわっ……すみません……はい、今度はなんとか上手くしますので」

「え? そ、そんなの無理だ。わ、私たちまだ高校生だぞ……」

「助けてください。なんとかしたい気持ちはあるんです……」


 などなど、到底クラスメイトの吉田と通話をしているとは思えない声が廊下から漏れきこえてくる。


 いや、なんの話してるんだよ……。


 気にはなったが、まあ俺には関係のない話なのであえて意識しないようにしていると「はい、では明日改めて報告させていただきます」という言葉とともにがちゃりとドアが開いた。


 そして、廊下から現れた明日花の顔はさっき以上に青ざめていた。


「お、おい明日花?」

「はわ……はわ……」

「おい大丈夫か? なんかヤクザみたいなのに詰められているような会話が聞こえてきたけど」

「い、いや、吉田がドタキャンしたことを謝りにわざわざ電話をかけてきてくれただけだ……」

「謝られたというよりは謝ったあとみたいな顔してるけど……」

「………………」


 明日花は何も答えずに俺のそばに腰を下ろすと、頭を抱えた。


「祐太郎……私は不器用かもしれない……」

「いや、前から知ってるけど……」

「あと私は吉田ほど恐ろしい女の子を知らないかもしれない……」

「同意をするわけにはいかないけれど、なんとなく明日花が言いたいことはわかる気がするぞ」


 理由はわからないが明日花もさっきの俺よろしく吉田から詰められていたようだ。


 吉田に詰められる恐ろしさを知っている俺は、少しだけ明日花が戦友のように思えてきて親近感がわいた。

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