第51話

≪もういい≫





僕は確かにそう言った筈なんだけれど、彼女には。


どうやらそれすら届かなかったらしい。



≪そういう顔の方が庵っぽいんじゃない?≫




つくづく頭のおかしい女だと思った。





・・・




「庵さん。ここで寝ちゃだめですよっていっつも言われてますよね?それに、風邪引いちゃう」


「…」


「あ、バナナ。頂いてもいいですか?」



「…待った」



「え!食べちゃだめでしたか!!」


「ちが、それじゃない」





うん。


ここが事務所の二階だということはわかる。手首に触れる肌触りで、あのグレーのソファを確かめたから。


いつものようにそこでついついうたた寝してしまっていたのも、知ってる。



で。


業務の所為で肩凝りの激しい俺の向かい側のソファで、今にもテーブルにあった籠のバナナの皮をむこうとしてこっちを見てる、のは。あれだ、そう。




確かうちと敵対関係にある事務所の――"顔"であるアイドルグループの――金城 啓(Kaneshiro Kei)じゃないのか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る