第13話 「節分のテンプレは豆まきと恵方巻き」
節分。日本の伝統的な年中行事だ。今年の場合は2月2日が節分になるとのことだ。節分と言えば、豆まきと恵方巻きがメイントピックだろう。
恵方巻きは、みんなが知っているとおり、うまい。海鮮やら肉やら入っていると、よりうまい。恵方巻きは特定の方角(2025年は西南西)を向いて無言でも食べるのがいいといわれている。
豆まきは、簡単に言うと鬼に豆を投げる。鬼役はお父さんがお面を被って務めることが多い。
しかし、これらは一般的な話だ。年齢によって節分との向き合い方は違う。
例えば生まれたばかりの赤ちゃん。赤ちゃんは豆を投げられないし恵方巻きも食べられない。基本的には仰向けで寝たまま1日を過ごすので、西南西を向くと言った発想にも辿りつかない。
例えば80歳くらいの夫婦。2人暮らしだとする。恵方巻きはゆっくり慎重に食べて頂きたいが、80歳のおじいちゃんに鬼役は心配だ。お面なんてつけなくていい。80歳のおばあちゃんも、積年の恨みなんかがあったとしても、振りかぶって80歳のおじいちゃんに豆を投げないで欲しい。
さて、それでは高校一年生の俺は節分とどう向き合うか。
家で豆まきをしたのは小学生の時が最後だった。中学生にもなると、豆まきなんて興味もなくてやめてしまった。中学生で興味を失った豆まきを高校生になってやるなんてことは、普通は無い。
でも今俺は、日曜日の昼下がり、鬼のコスプレをして高校にいる。
なぜだろう。
ーーーーーーーーー
一月の終わり、テンプレ部の部室には鳴海さんと俺がいた。俺たちは鳴海さんが入れてくれた珈琲を飲みながらゆっくりと過ごしていた。
「2月2日は何の日かわかる?」鳴海さんが言った。
「なんかありましたっけ。わからないです」俺は言った。2月2日は今週の日曜日だ。
「節分だよ! 瀬田くんは毎年ちゃんと豆まきしてる?」
「もうしてないですねえ。高校生になるとみんな豆まきはしないんじゃないですか?」
「それはよくないね」鳴海さんが言った。「節分のテンプレは豆まきと恵方巻き。テンプレ部で節分しないとだよ」
「まあ、そうかもしれませんね。みんなでやりますか」俺は言った。鳴海さんの言うことにも一理ある。仲間内で豆まきをして恵方巻きを食べる。そういったものもひとつの青春の形として良いのだろう。
そのとき、部室の扉が開いた。扉の方を見ると、入ってくるのは優衣だった。鳴海優衣。鳴海さんの妹だ。鳴海さんが正統派黒髪美少女なのに対して、優衣はひょんなことからピンク髪だ。
「優衣もみんなと豆まきするよね?」鳴海さんが言った。
「豆まき?いいけど。ここでやるの?」
「うん。部室で。瀬田くんが鬼のコスプレもするよ」
「え?」俺は言った。みんなでやりますかとは確かに言ったが、その一言で俺が鬼のコスプレをすることまで確定していたようだ。
「なにそれめっちゃ楽しそう!」優衣は嬉々とした表情で言った。「硬い豆用意しとこ」
「硬い豆、よくないね」俺は言った。
「いやでも、鬼を外に追い出すにはある程度の殺傷力が」
「殺傷力」俺は言った。
硬い豆の導入はさておき、俺たちは節分の豆まきを部室ですることになった。恵方巻きについては、コンビニで各自購入しよう、と鳴海さんが言った。
「じゃあ、2月2日は部室集合で。他のみんなにも連絡しとくね」鳴海さんが言った。
「え、当日って日曜ですけど」俺は言った。
「どうしたの?」
「いやー日曜まで学校に来たくないと言いますか……月曜でもよくないですか?」
「野球部もサッカー部も日曜に来て試合してるよ」鳴海さんが言った。
鳴海さんの中ではテンプレ部という奇特な部は野球部やサッカー部と並列にあるようだ。
「わざわざ来るのも大変ですし日曜は家で休みたいような気もしますが」日曜日に来たくない俺はゴネる。
「でも瀬田は鬼のコスプレするんでしょ? 鬼って下はトラのパンツ、上は裸だよね。それで平日来たい?」優衣が言った。
「是非日曜にやりましょう」俺は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます