第10話 「瀬田マイナス2分遅刻~」
ここはテンプレ部の部室……ではなく、高校近くの神社。数日前、宮前部長から初詣をするので神社に集合と全体に連絡があった。そんなわけでテンプレ部員たちは皆で初詣に来ることになっている。
俺が神社の入り口に着くと、すでに宮前部長、鳴海さん、夏目さん、優衣は集まっていた。
「瀬田マイナス2分遅刻~」夏目さんが言った。
「それパワハラですよ。間に合ってますから」俺が言うと、夏目さんは少し目を細めて笑った。彼女の着る黒のコートは、彼女の金髪のボブ・ヘアとコントラストされてよく似合っていた。
「それで、今日は普通に初詣する感じですか?」俺は宮前部長に尋ねた。
「普通に初詣はしない」宮前部長が言った。今年は普通の高校生活を送れるかと期待したが、そうはいかないようだ。
「今日、皆に集まってもらったのは他でもない。私の受験必勝祈願だ。行くぞ」宮前部長はそういって、俺たちを引き連れて歩き始める。今日は三が日ということもあり境内は混雑している。
宮前部長は3年生だ。初詣で受験の成功を願う。これから大学入試があることを考えると、時期的にもこのイベントはテンプレと言っていいだろう。神社に奉納されている絵馬にも〇〇大学合格!といった記載があるのをよく見る。
「部長って勉強得意なんですか?」ピンクのウールコートを着たピンク髪の優衣が言った。
「進学と留年で考えたら留年のほうが近い。進学は掴み取らなきゃだけど、留年はなにもしなくても手に入る」宮前部長が言った。この人大丈夫なんだろうかと俺は思う。
「うちの高校って進級結構厳しですよね。成績悪いと平気で留年しますし」夏目さんが言う。
そうなんだ、と俺は思う。進級が厳しいなんて全く知らなかった。受験のときだけ頑張ろうと思って定期テストなんて俺はテキトーにやっていたのだ。
「俺やばいかもしれないです」そう俺が言うと「瀬田なら一盃口を作れるかもしれないな」夏目さんが言った。
「イーペーコーってなんですか」俺は尋ねる。
「麻雀の役だね。みんなで麻雀したいし、今度ルール覚えようね」鳴海さんが教えてくれる。
「毎年1年だけ留年して、1年1年2年2年3年3年ってなれば一盃口」夏目さんが言う。
つまりはこういうことのようだ。
一一二二三三
年年年年年年
「1回目の3年生の頃には喫煙所でタバコも吸えるし、酒も飲める。いいこと尽くめ。よかったねえ瀬田」夏目さんが言った。そんなの非テンプレすぎるのでこれからは真面目にしようと俺は思う。
ちなみに高校6年間で一盃口を完成させたのち、大学も同様に8年で卒業すると七対子が完成するとのことだ。
つまりはこういうことのようだ。
高高高高高高大大大大大大大大
一一二二三三一一二二三三四四
そうこう話しているうちに本殿についた。俺たちは賽銭を入れ皆でお参りをした。めいめいに手を合わせてお願いし、終わると順路に沿って道を歩き始めた。
「瀬田は何お願いしたの?」俺の隣にいた夏目さんが言う。
「夏目さんが俺にもっと優しくなるように願ってました」
「それはちょっと厳しそうだね」夏目さんが笑いながら言った。
本殿から少し歩き、一つ曲がると左右に出店が並んだ通りに出た。
「出店いっぱいありますね。何か食べますか?」俺は言った。
焼きそば、じゃがバター、カステラ、鮎の塩焼きとか、美味しそうなものが並んでいる。
「食べ物で思い出したけど、この部にもデブ枠、欲しくなるね」宮前部長が言った。
「デブ枠って何ですか?」鳴海さんが尋ねた。
「太ったキャラ。パーティにひとりはそういうキャラいたほうが展開に幅が出るでしょ。乙女にデブキャラは無理だから瀬田を太らせる必要があるけど」
「デブキャラってそんなにいますか?」危機感を覚えた俺は展開を変えるよう誘導する。
「うーん。例えば、剛田武、安西先生、カビゴン、トトロとか」宮前部長が言う。俺に何になれというのだ。
「トトロってデブ枠なんですかね」優衣が言った。
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