第9話 「私、サンタクロースになって」
12月24日の火曜日。俺と鳴海さんは駅前の商店街にある喫茶店にいた。数日前にデートの約束をして、クリスマスイブの今日がその日だ。
鳴海さんはチョコレートバナナパフェとミルクティーを、俺はパンプキンパイとホットコーヒーを頼んだ。
「デートみたいですね」俺は言った。
「デートだからね」鳴海さんは少し目を細めて微笑みながら言う。
鳴海さんの笑顔を見る。ついに俺にも春が来た、と思う。クリスマスだけど。
「デートってさ、したいことを一緒にするものだよね」鳴海さんが言った。
「まあそうですね」俺は言う。デートの定義について考えたことは無いが、おそらくそういうことだろう。違う時間に違うことをしていたらそれはデートとは言わない。
「私さ、今日、どうしても瀬田くんとしたいことがあってね。どうしても」鳴海さんが言った。
ほうほう。これは盛り上がってきましたな。クリスマスイブにやりたいことなんて、ひとつしかないでしょう。
「あのね、瀬田くん。私……」鳴海さんは恥ずかしそうに下を向きながら言う。俺は言葉を待つ。
「私、サンタクロースになって」鳴海さんが言う。サンタクロース? 何かの隠語か? と思いながら俺はコーヒーのカップを唇につける。
「煙突から」
「煙突から?」俺は復唱した。
「他人の家に入りたいの」
「不法侵入ですよ」
「そこをなんとか。根回しとか瀬田くんがやって、私が実行部隊でいけない?」鳴海さんが手を合わせてこちらを見る。
「いけない気がしますね…… さすがに。そもそも煙突のある家をこのへんで見たことがないですし、家が見つかったとしても、鳴海さんがその煙突を登って、中を落下するのは無理ですよ」
「むむう」鳴海さんが腕を組む。腕を組むと、その形のいい胸のふくらみがブラウス越しにも強調される。俺はチラリとそれを見る。
「でもこのテンプレを人生で一回はやってみたいなあ」鳴海さんは言った。
「来年のクリスマス、また一緒に考えましょうよ」俺は鳴海さんを見て言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます