第53話 真琴、出口へ向かう
真琴たちは、エスピラールの天辺に居た。
エスピラールの屋上から、遥か遠くを見渡す。
小さな白い球体が、空に放たれた風船の様に上がっていく。
どこに行くのだろうと球体を眺めていた。
屋上の中央には、煙突のようなでっぱりがあった。
そこから、下に居た赤ん坊は浮かんでいく。
そして、別世界を目指し上っていく。
小さな白い球体には、赤ん坊が入っている。
上空から自分を生んでくれる親を探す。
そして、その親の元へと向かう。
幸せになれればいいねと願わずにはいられない。
絢音と響介が並んでそれを見ていた。
「私たちも、ああやって生まれるのかしら」
「そうだな……きっと、会えるよ……そう信じているから」
「わたしも……」
二人ともお互いの顔を忘れない様に見つめ、再び、天空の白い球体を見つめる。
「バルバルスだ!」響介が叫ぶ。
バルバルスは、エスピラールのまわりを飛び回り、こちらの様子を伺っている。
「大丈夫です。
彼は、エスピラールに近付くことはできないのです。
真琴に追いつくことはできない」
と、パイロが教えてくれた。
その言葉を真琴は、聞き逃さなかった。
僕に追いつくことができない?
真琴の頭の中に何だろうと疑問符が浮かぶ。
僕は、ここに居るし、飛んでいない。
僕が飛ぶのか?
ここから?
真琴が考えている間、響介と絢音は、バルバルスを目で追っていた。
「さてと、君を元の世界に戻しとするか」
パイロは真琴を見つめる。
「お願いします……どうすればいいのですか?」と真琴。
「ここから、飛び降りなさい」パイロは、下を指さした。
「ハァ?……飛び降りる?……」真琴は、下を見つめた。
先ほど考えていたことが、現実になった。
「そう、君は生きてるからね。上から出られない」
パイロが天空を指差す。
真琴は指差された天空を見上げる。
真琴は動こうとはしない。
実は、動けない。
真琴は、高所恐怖症なのだから。
「俺が先に……アレ?」
と言って響介が屋上から飛び降りようとしたが、浮いている。
絢音も飛び降りようとしたが、響介と同じ様に浮いていた。
「降りられないよ……
君たちは、死んでいるんだから……
まだ準備が出来ていないんだ。
もう少しすると上に行けるさ。あの赤ん坊と同じにね」
パイロは、白い球体を指さす。
「あっ、赤ん坊に見えるけど、実際は別の姿をしている。
君たちにわかりやすいように、イメージとして赤ん坊に見えるようにしておいたよ。
別の世界では、身体を得ることが出来るが、選べないんだ。
初めて別の世界に行く赤ん坊は、頭の中に宇宙を入れられる。
分かりやすく言えば、得意なものだな。
スポーツとか音楽や小説とかさ。
生まれた時、頭の中の何が入っていたか忘れてしまう。
生まれる時は、苦しいからね。
育って間に、気づくかもしれない。
それに気づけた者は、すばらしい力を発揮するようだ。
君たちは、初めてじゃないので、宇宙は頭の中に入ってるよ。
なんとなく自分に向いているもの分かってるだろ」
パイロは、わかった?と真琴たちを見た。
「準備が出来てないからか……」響介と絢音は、呟く。
跳ねてみたり、寝そべってみたり、色々試していた。
確かに落ちない。
バルバルスもこちらに近づけないようだ。
真琴は、響介と絢音を見ていて、自分も出来るではないかと思った。
「えい」と真琴が屋上から、外にジャンプした。
「あああ!」
パイロが叫んだが間に合わなかった。
真琴は、そのまま落ちて行った。
「お前は、ダメだって……生きてるんだから」パイロが叫ぶ。
「真琴ぉ!何やっているんだぁ!」響介が真琴に手を伸ばすが届かない。
「だいじょうぶぅー!」絢音も慌てて声をかけたが、真琴はすごい勢いで落ちて行く。
「あいつ、何かってにやってるんだ。挨拶もしないで」と響介。
「バカっ」絢音も落ちて行く真琴を目で追った。
「ああ、行っちゃった。話を聞かずにさ」パイロが響介と絢音の顔を見た。
「真琴は、大丈夫か?
落ちちゃったけど……どこに向かっているんだ?」響介がパイロに詰め寄る。
「地下鉄。君たちは、地下鉄から来ただろ。
元の世界に行きの電車に向かって落ちて行ったんだ。
ホームは反対側だけど」
パイロは、慌てている二人と逆に落ち着いた口調だった。
落ちていく真琴を影が覆った。
「バルバルスだ!」響介が叫ぶ。
「大丈夫、バルバルスには、追いつく事は出来ない」
パイロが呟く。
真琴をバルバルスが追いかける。
パイロが言うように真琴の方が早かった。
バルバルスがどんどん離されていく。
「ほらね、追いつけないだろ」パイロが言う。
響介と絢音は、その様子を拳を握りながら眺めていた。
自分たちには、何もできない。
「君たちもそろそろ準備した方いい……消えかかっている」
パイロの言葉に、響介と絢音がお互いに姿を確認した。
確かに、透けてきている。
「さぁ、下に戻ろう」
パイロは、扉を開けた。
響介と絢音もオッコーンと言う声のする方に下りて行った。
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