第32話 作戦B

 作戦B。


 ウビークエとオピフが考えたパイロやパテシエ、コックを探す方法。

 オピフは「あっ」声を上げた。

 作戦Bを思い出したらしい。

 ウビークエとオピフが考えた作戦。

 

 相変わらず回廊は続いていて、造りが同じの扉が並んでいた。

 その扉には、一つずつカウントアップする部屋番号とバーコードが張られているだけだった。

 手がかりになるものは、何も書かれていない。

 扉を一個一個確認するしかないのか。

 それでは時間が係りすぎる。

 気が遠くなる程の時間がかかる。

 ウビークエが、甘い匂いを見失ってしまった今、これしか無いのだろう。


 この作戦を実行するには、度胸が必要だとウビークエが言う。

 作戦Bを説明するためにウビークエが響介の肩からおろされた。


 作戦Bってなんだ?

 そもそも、作戦なんかあったのか?

 作戦Bってことは、作戦Aがあったのか?

 作戦CもDもその他もあるのか?

 真琴たちは、頭を悩ましていた。


「ちょっと待て……作戦Aってなんだ?」

「今までの行動が、作戦Aだ。名付けて、なりすまし作戦だ」

 ウビークエが、当然と言う感じで言った。


「なりすまし……、作戦Bってのはなんだ」

 響介は、納得がいかない。


「言っていいのか」と、オピフが不安な顔でウビークエを見た。

 どうぞとウビークエ。

 オピフが、右手の拳を口にあてた。

 軽い咳払いをしながら、真琴たちの顔を眺める。

 右手の拳を降ろし、両手を腰に回した。

 首を回したり、背伸びを繰り返したりと落ち着かない。

 真琴たちの目がオピフに集中する。

「引っ張るなぁ、早く言ってよ」絢音が声を上げる。


 わかったとオピフが頷いた。

「えーと、作戦Bというのは・・・・・・えーと、作戦Bは・・・・・・何だっけ」

 オピフがウビークエに助けを求めた。

 なんだよとざわつく真琴たちを横目にウビークエが話す。

「おいらとオピフは、こんな事があると思って、ずーっと考えていたんだ」

 と、言って自分の頭を指さす。

「だから、作戦Bって何だよ」今度は、真琴がシビレを切らした。


 ウビークエは、右手の人差し指を立て、口に当てた。

 どうやら、静かにということらしい。

 真琴たちは、じっとウビークエを見つめる。

 ウビークエは深呼吸をすると語り始めた。


「作戦Bは、名付けてオトリ作戦である」

 どうだと真琴たちを見渡す。


「この中の一人が仮装をやめてもらう。

 すると、住人に気づかれ、侵入者となって捕まる。

 捕まえてから、奴らはどうすると思う?」


「どこかに連れて行くだろうな」

「どこへ連れて行くの?」

「牢屋とか……」

 真琴たちが思いついたことを言う。


「そのどこかには、他に誰がいると思う?」と、ウビークエ。


「前に捕まった侵入者?」と、絢音。


「その侵入者って、この塔以外から来た人だよね」


「そこに、コックもパテシエも居るって言いたいのか?」響介が突っ込む。

 ウビークエが、コクッと頷く。


 真琴たちは、腕組みをして唸った。

 それが、いい方法なのか。

 自分たちに残された、ただ一つの方法なのか。


 確かに、このまま、扉を一つ一つ開け続けるよりマシだ。

 真琴たちは、お互いに顔を見合わせ、仕方ないと作戦Bを実行することにした。


「それしかないかぁ。で・・・・・・誰がやるんだぁ?」

 真琴が声を上げる。


 ウビークエが、ポケットかの中に手を入れガサゴソと何か探している。

 あったとポケットから取り出したのは、長さ十センチ程の数本のヒモだった。

 オピフから、赤色のフエルトペンを受け取り、ヒモに細工している。

 そして、ウビークエが五本のヒモを握った拳を突き出した。


「クジだ。この中に一本だけ、先っぽが赤い。それが当たりだ」

 ほらと真琴の目の前に突き出した。


「俺から?」

 ”くじ”か。

 真琴は、”くじ”が苦手だった。

 当たったことがないのである。

 クリスマス会や誕生会のビンゴとか、駄菓子屋、アイスの棒など、当たったことがない。

 いつも当たらないだろうなと心の隅に泡の様に浮かんでくる。

 その度に、いや、今度は、今度こそ当たるに違いないと思ったが、叶うことはなかった。

 くじ運がないのである。

 一種のコンプレックスになっていた。

 当たる当たらないは、確率の問題で自分の能力が劣っている訳では決してないと自分に言い聞かせるが、何回も当たりを引いている人をみると正直、羨んでしまう。


 人は運を持っていて、色々な場面でその運を使っていると聞くたことがある。

 運の量は決まっていて、ちょっとした賭け事に勝っても運が使われるらしい。


 ということは、くじに当たったことがない真琴には運が丸ごと残っていることになる。

 本当に必要な時に、運を使ってやるとと心に誓っていた。


 待てよ。


 今回は、当たりを引いたの者がオトリだ。

 当たらなければいいのだ。

 と、いう事は、はずれを引けば良いのだ。

 くじ運の無い私にとっては、むしろラッキーだと言えないか。


 よし、引いてやる。絶対、はずれを引いてやる。

 周りを見渡すと早く引けとみんなの視線が痛い。

 俺のくじ運の無さを見せてやると、真琴が力いっぱいヒモ引いた。


「当たりっ!」ウビークエの大きな声。


 ヒモの先が赤い。

 真琴は、なんでこんな時に当たるんだと唖然としていた。


 その隙にウビークエは、残りのヒモを遠くに投げ捨てた。

 それに気が付いた真琴が、何をしているとウビークエの腕を掴んだ。


「何って?もう、当たりが出たから捨てたんだ」

 顎を突き出してウビークエが言う。

 響介や絢音がニヤつく。

「やられたね、兄さん」と、オピフが真琴の肩をポンと叩いた。


 真琴は言葉を失った。


「ところで、作戦CやDは、あるのか?」と、あきらめて気を取り戻した真琴が訊いた。


「そんなものはないよ」ウビークエが、当然と言う様に言った。

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