第29話 潜入
次の日、真琴たちは、庭園のガゼボでウビークエを待っていた。
「やぁ、待ったぁ」
その声は、ウビークエだった。その後ろにもう一人居る。
ウビークエは、真琴たちの視線が後ろのもう一人に注がれていることに気付いた。
ウビークエは、ちらっと後ろを振り返えると右手の親指を立てその親指で後ろを指した。
「こいつは、職人、オピフだ。何でも出来るよ。変装を手伝って貰うのだ」
「よろしく……壊すことも作ることもできるよ。壊す方が好きだけど」
オピフが、ウビークエを押しのけてしゃべる。
オピフは、ガッチリとした身体つきだ。
頭には、昔のパイロットが付けるゴーグルとヘッドライト。
腰には、重そうな充電式インパクトドライバーをホルダーに下げていた。
何故か鉛筆を耳に挟めている。
背中にバカでかいスパナが組み込まれたケースを背負っていた。
「中を見るかい」
背負いケースを降ろし蓋を開けるとどうだと言わんばかりに真琴たちを見た。
ケースの中を覗いた。
先を交換出来る携帯用ラチェットドライバー、刃が太い工業用カッター、ペンチ、プライヤー、五メータースケール、電設用工具もある。
「取り合えず必要な物を持ってきた。何でもできるぜ」
と言うと親指で自分の鼻を弾いた。
響介と真琴が興味を示す。
「どうやって使うの?」
「腰ベルト、付けてみるか?」とオピフ。
「重てぃ」と直ぐに弱音を吐く。
「俺も」と言う真琴に「腰悪くするから、やめとけ」と響介。
真琴は、腰ベルトをすると、「やばいやばい」と響介に助けを求めた。
「若いくせにだらしないの」その様子を見て、絢音に笑われた。
オピフは、そんな真琴と響介を横目にし、「どうだ」とベルトを軽々と腰に付けた。
それは、絢音へのアピールか。
「もう済んだでし、行くよ。ウビークエ、案内をお願い!」
絢音が「お前たちは子どもか」と急かせた。
オピフは、ケースの中をゴソゴソと探り、「暗いからな、首から掛けな」とヘッドライトを皆に配った。
「こっち、こっち」とウビークエが先で呼んでいる。
例の球体の乗り物を使って一階に着いた。
行ったことのない奥へと進む。
段々と明かりが届かなくなてきた。
「ここだよ」
何やら、床に直径一メートル程の丸い鉄板が敷いてあった。
淵がアンカーボルトで止められている。
オピフは、何処からか、カラーコーンと白黒の縞の棒を持って来た。
工事現場で見かけるアレだ。
鉄板の周りを囲み、「立ち入り禁止」のプラカードを設置した。
「これで良し」オピフが顔を上げた。
腰から、インパクトドライバーを取り出し、アンカーボルトを外していく。
ダダダダッとインパクトドライバーの音が響き渡る。
蓋をずらす。
オピフの表情で蓋の重さがわかる。
鉄板の下には、階段があった。
オピフが先に入り、穴がうす暗い明りが点灯する。
オピフが、ヒョコっと顔を出し、「来いよ」と手招きした。
みんな、それに従った。
何回か折れ曲がった階段を下ると、直径五メートル程のトンネルに行き当たった。
直径三十センチ程の菅が、トンネルに沿って設置されている。
所々の壁から水が滴っていて、トンネルの片隅の側孔に流れ込んでいる。
じめっとした湿気と何日もほおっておいた雑巾のような匂いが身体を包んだ。
しばらく、息をひそめトンネルの先を見つめる。
聞こえるのは、遠くから聞こえるモーターのような音や水が垂れる音だけだった。
「何か居る?」と、絢音が誰に訊いてる訳でもなく呟く。
「行こう、離れちゃだめだよ」ウビークエが先頭を歩いた。
暫く、ウビークエに付いて歩いた。
虫嫌いな絢音は特に落ち着かない。
壁や床や天井に目をやる。
何か見つけるたびに驚き、びくっと肩をすぼめた。
「ここだ」
ウビークエは、皆を止めた。
そして、壁を指さした。
壁には、厚い鉄板が張られていた。
その鉄板には、へたくそな字で”銀の入口”と書かれていた。
また、オピフの出番だ。
鉄板は、淵を等間隔でボルトで固定されていた。
「こういうのは、下から外さないとな」と独り言をいいながら、オピフがボルトを外していく。
鉄板の上端のボルト一本を残し、全てのボルトを外した。
オピフは、鉄板を横へずらし、反対側からも開けれるように細工をした。
穴が現れた。
半径一メートルの穴だ。
穴の周りは、荒い断面を見せていた。
ただ、予定されていたものではない緊急に開けられた穴だ。
「この穴をくぐるんだ。あっちが、銀の塔だ」
先頭は、やはり、ウビークエだ。
次々と穴から、銀の塔へと入っていった。
ウビークエが、両手を上から下へを繰り返し、頭を低くするように指示を出す。
ゆっくりと中に進む。
「ここまで来れば大丈夫だ」
ウビークエが立ち上がる。
みんな、腰に手をあて、いたたたと背を伸ばす。
周りを見渡す。
そこには、色々なロボットが積まれていた、自動車のスクラップ工場の様に。
「オピフ、頼んだよ」
わかったとオピフがロボットの廃材の中からボディだけを選んで、持ってくると、あっと言う間に人数分の変装用ボディを造った。
各自、来てみて微調整をしていく。
「なんか、懐かしくない?」絢音が真琴と響介を見る。
「幼稚園の時、こんなの着たよ」
真琴と響介は、思い出していた。
そう、幼稚園の劇をやったんだ。
真琴は案山子で、響介はブリキ男だった。
真琴たちは大笑いしたが、ウビークエとオピフは、ポカンとして真琴たちを見ていた。
「こんなので、大丈夫なのか?」
響介は、腕をを上げながら呟いた。
動く度に金属の擦れる音がする。
「大丈夫、怯えるから見つかるのさ。堂々と胸を張って歩くんだ」
そう言うとウビークエは、小さな胸を張った。
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