第21話 奪い合いの歴史
真琴たちは、オムネ城からの帰りの球体の中でも、なかなか興奮は収まらなかった。
この白い塔の中に、城下町があり、人間が創ってきたものが簡単に観れるなんて。
真琴たちがオムネ城から帰ってくると庭園に、メトセラとグベルナがテーブルが居た。
グベルナは、真琴たちを見つけると立ち上がり、手招きをしてここに座る様に促した。
真琴たちは、ちょっと緊張しながらゆっくりとテーブルに着いた。
「丁度、お茶の時間だ」
グベルナが言うと、目の前に紅茶が出されていた。
もちろん、お菓子も添えられて。
それを見た途端、絢音のお腹がグルグルと鳴った。
聞こえたかなと周りを見渡す絢音。
「お腹がペコペコだし、喉もカラカラ。いただきます」
響介の大きな声で気まずい雰囲気が変わる。
絢音と真琴も響介に続いて、紅茶に口を付けた。
グベルナが、真琴たちが落ち着いた頃に話し始めた。
「オムネ城は、良かっただろう、人間が創ったもの全てがあるからな」
子どもが自分のオモチャを見せて自慢しているようだ。
真琴たちは、お菓子を頬張りながら頷いた。
「なぜ、あのようなモノがあるのですか?」最初に訊いたのは、絢音だった。
グベルナが、その問いに答える。
「人間が、やっている事を見ているのだ。
僕の仕事は、人間の監視。
人間が行きすぎないように見てるのさ……ね、メトセラ」
グベルナがメトセラを目を向けるとメトセラがそうだと頷いた。
「人間は何をするのかわからないからな……爺さんのせいだ」
爺さんって、地下鉄であったお爺さんの事と真琴たちは顔を見合わす。
「そう、その爺さんさ」グベルナの言葉に、真琴たちは心を読まれたと思った。
「爺さんは、みんな楽しく幸せに暮らしてほしいと願ってたけど、誤算もあってね」
メトセラが、その言葉を引継いだ。
「人間には、欲がある。全ての人間とは言わないが……中には非常に強く思う者がいる」
真琴たちには、ピンとこない話だ。
「人間は、戦争を起こす。そのための兵器が何も関係ないモノまで、破壊し殺すのだ」
戦争・・・・・・。
真琴は、メトセラと話したことを思い出した。
人間は、勝手に自分たちだけの価値を作り上げ、それを奪い取るために戦争を起こしていると。
「我々は、人間に与えるモノを間違ったのかもしれない。幸せのためにそのモノを使うと思っていた」
真琴たちは、メトセラから目が離せない。
「残念ながら、自分たちだけのために使う者が現れたのだ。
そして、戦いに勝って、他の者より豊かになろうとした。
それを止めることができるのは、同じ人間しかいないのに」
メトセラの言葉に力が入っていた。”怒り”という力が。
「メトセラ、もう、いいだろう」グベルナが、メトセラの肩を叩く。
「忘れているようだから、もう一度、見てくるがいい。
そして、人間が幸せに生きる方法を考えることだ。
どうしょうもなくなったら、僕の出番だけど」
僕の出番。
ウルペースの言葉を思い出した。
白い塔の周りにあった廃墟みたいな塔の事を。
「そう、すべてあの方によって、廃棄された塔よ。
あの方が、いらないとか、邪魔だか判断したら、なぜか、勝手に滅びるの。
これ以上は、ダメってところまで行っちゃったから」
背筋に寒気がした。
グベルナの力が、どれ程の力なのだろうと。
「明日、私も付き合おう。いっぱい食べて休むがいい」
その声で、真琴たちは現実に引き戻されたようだ。
次の日、真琴たちはオムネ城の”視聴覚の間”に居た。
メトセラも一緒に。
”戦争”を検索をした。
眼の中のコンタクト型のデイスプレィにコメントが表示された。
真琴たちは闇に包まれた後、映像が流れ始めた。
人類の戦争の歴史。
人間の争いの記録だ。
それは、人類が二足歩行をはじめ、両手が使えるようになってからだ。
食べるためや他の動物から身を守りために木の枝や石で、道具を手にした。
さらに”火”を手に入れた。
石器や槍、弓を手に入れ、集団で戦うことを知った。
その種族が、生き残るために奪い取ることを覚えた。
集団で暮らす人間は、自分の属する集団が生き残ることを考えた。
身を守る為や食料を得る為に使われていた道具。
その道具が、同じ種同士の戦いに使用された。
道具から武器に変わった。
奪い合いの歴史。
更に時は流れ、蒸気機関や火薬や金属の発展が、多量の殺戮ができる兵器をつくりだした。
兵器の進化は、決して留まることはなく、多くの兵器がつくられ、多くの者が殺されていく。
新しいものを使ってみたい欲望を止めることができない。
叫び声が、怒りが映し出される。
人形のような死体が、ゴロゴロと倒れている。
あの世界大戦が映し出される。
長さ三メートルの直径七十センチ、六十キログラムの核物質を使用した爆弾が投下された。
巨大な光の玉、衝撃波、きのこ雲、黒い空、黒い雨。
一瞬のうちに熱線がすべて燃やし人を川を蒸発させる。
衝撃波が建物を吹き飛ばし、窓ガラスが刃物となって壁に床に体に降り注ぐ。
火傷を負った人びとは、水を求め彷徨い歩く。火傷で垂れ下がった皮膚を引きづりながら。
かろうじて、助かった人びとも飢えや怪我や火傷に苦しむ。
その土地を訪れた者まで、細胞を破壊し、数年先に死に追いやる。
地獄と呼ばれる風景そのもの。
もちろん、人間だけではなく、植物までが消し去られた。
だが、これにも飽き足らず、また、新兵器が生まれる。
核爆弾の威力が、大きすぎたため、信じられないのかもしれない。
人間には、出来ないこと、同じ人間の仕業だと認めたくない。
これは、何か得体のしれない大きな存在による仕業だと。
時が記憶を薄くしていく。
爆弾の惨事は、対岸の火事を見るように自分毎としては捉えられなかった。
戦争だからと遠くから見つめるだけだった。
新兵器は、試したくなる魔物。
いつもどこかで、戦争は起きている。
誰かが喜び、誰かが泣いている。
泣き続けている。
泣き続けているのに泣き声が届かない。
泣くのは、いつの時代も非力な者たちだ。
なぜ、戦争をするのか?
させられるのか?
人間だけが・・・・・・。
こんなことは、学校で教えてくれない。
「私たちが人間を警戒するのもわかるだろ。未来は、君たちにかかっている」
メトセラが、真琴たちに話しかける。
「人間がどんなにこの世界を壊しても、我々植物は負けないがな」
メトセラは、爆弾が投下された直後と現在の航空写真を映し出した。
「人間は、何も育たないだろうと言っていた」
そして、現在の青々とした木々が茂る写真を指差した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます