第33話 冒険と汚職

 アミーこともう 惟秀これひでは、山越やまごえのぎょうの途中にて、RPG村と呼ばれる、呑舞山どんまいさんの上にあるコミュニティに保護ほごされることになった。


 そこは市の役所によって運営うんえいされ、家出人を保護ほごしているという前向きな場所であるものの、住人の活動内容の方は部外者ぶがいしゃにとっていまいち分からない場所でもあった。


「イクちゃん、アレは、小学生と戦ってるのは沱稔だみのるさんじゃないかな? ここに封印ふういんされてるフリをしてたのは俺も聞いたよ。文句もんくまで言われてるし、アレじゃ本当にあからさま過ぎないかな?」


 アミーとしては、小学生の週末の不思議な体験というのは、もっとこう秘密めいたところが欲しいと思っているのだ。


 アミーの目の前のグランドでは、沱稔だみのるさん(;TДT)が光の玉を発射して、4人の小学生男子がソレをけながらも接近せっきんするというターンに入っていた。


 先ほどの範囲はんい攻撃こうげきと呼ばれる光に当たった男子は、今はグランドの白線の外に出て、声を上げて応援おうえんの真っ最中さいちゅうであるようだ。

 彼がダウンしたと思われる場所には、ウレタンで作られたマネキンが代わりに置かれていた。げいこまかいんだな、というのがアミーの感想である。


「ヒロシ! おぬしにいくらわたしたと思っておるのだ!? 官憲かんけんにバレないように気まで使っておるというのに。

 それから、愛人問題についてはもう結婚けっこんしたら良いのだ。ミシャコさんにプロポーズしてこい! 今からだ。まだ独身どくしんなのだから、問題はどこにも無いのであろう?」


 狩衣かりぎぬ姿のアミーの隣では、イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくが、携帯電話に向かってめずらしく怒鳴どならしていた。

 つまり、今までのアミーの問いかけは全部が流されたと考えていい。


 アミーは、電話の向こうの相手はもしかすると、市議会議員の満南寺まんなんでらひろし氏ではないのかと思った。イクちゃんの実弾じつだんは、令和れいわの現代においても、現金げんきんと情報と不思議パワーであるらしいとそう思っていたからだ。


 ちなみに、市議会議員の満南寺まんなんでらひろし氏は40歳になるのだが、結婚歴けっこんれきなしの独身どくしん議員として有名な人物だった。

 この呑舞どんまい市から政治のキャリアを始める、というだけでもスゴいことだとアミーも思っていたのである。

 ここの有害ゆうがい危険きけん生物の駆除くじょ公約こうやくかかげているのだが、イクちゃんから応援されていたとしても、他県たけんの環境保護団体との交渉こうしょう不毛ふもう一言ひとこときるのではないだろうか。


「イクちゃん、もう良いかな? ヒロシさんってあの議員先生のことだろう? ミシャコさんは秘書の人かな。あの人はいつも美人をつれてるのに結婚してないよね?」


 通話を終えたイクちゃんに対し、アミーの方はオズオズとだが聞いてみた。先ほどの通話内容も、これはこれでのがせないものではあった。


「アミー、その通りなのだ。今日はえておるな。ミシャコさんも確かに秘書ひしょをしておられる女性だ。ヒロシの何が良いのかは知らんがな。

 カネめておくだけでは役に立たんから、今は政治せいじ資金しきんとしてそれなりのところに出しておるのだ。おかげでこちらの実態じったいも国にバレておらん」


 家出人いえでにん保護ほごと小学生の育英いくえいを同時にやっている村まできて、こういう話まで聞かされるとはアミーも思っていなかった。


 小学生と遊んでいるのは、因習村いんしゅうむらの神様というよりはモロにロボという感じの沱稔だみのるさん(;TДT)である、というだけでも充分に衝撃的な話なのだ。


「イクちゃん、ところでさっきも聞いたんだけど……沱稔だみのるさん(;TДT)はアレで大丈夫なのかい? 公式ユルキャラがもう1個増えるとか、そんな感じでどうにかするのかと思ったんだけど」


 アミーはもう一度だけ聞いてみた。他にも不安な点は多いのであるが、これではガバガバで、空撮くうさつにでも引っかかるのではないだろうかと考えたのだ。


「アミー、ここの上空は『おセンチさん』が飛んでおるからな。民間みんかん自衛隊じえいたいでは事情通じじょうつうのパイロットしか飛んでこないのだ。

 それから、監視かんし衛星えいせいうつしておるのは欺瞞ぎまん情報だけだ」


 イクちゃんから返ってきたのは、いつもの調子のスキの無い答えだけだった。


 ここは、心ある者は見えないりをし、大きな他国たこくにとっては単なる東洋とうよう田舎いなかでしかなかった。





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