第32話 山のコミュニティ

 アミーこともう 惟秀これひで山越やまごえのぎょうの途中にて、頭部にブーメランの一撃を食らって昏倒こんとうした。これは一応は現代の日本の話である。

 

 気絶きぜつした彼は、ブーメランを投げた10代なかばの少女であるリノリノの助けもあって、RPG村と呼ばれるコミュニティに保護ほごされることになったのだ。

 

 もう春も近い3月の土曜日のことだった。


「ここってまる場所があるんですか? 本当に助かります。もうどうしようかと思ってたぐらいでして。7000円ですか。良心的な料金で助かります」


 その日はもう夕方になってしまっており、今さら引き返す体力も無いアミーは、ここにきてイクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくに泣きついたところ、今日はこの村にまっても良いだろうということになった。

 途中で飲まされた、あのあやしい栄養ドリンクでさえ、アミーのたるみきった身体を進めさせることは出来なかったのである。


 流石さすがに、年頃としごろの少女であるリノリノのログハウスに、成人男性がまるわけにはいかないと思ったのだが、この村には簡易宿泊所が普通にあるそうなのだ。しかも運営うんえいしているのは呑舞どんまい市の役所であった。


「イクちゃん、ここはすごいよ。温泉まであるなんて、俺は今まで聞いたことがなかったなぁ……どうして有名にならないんだろぅ? 下の街には温泉なんて無いよね?」


 アミーとしては料金も支払い、蕎麦そば定食までいただいて、こうして温泉にかってゆっくり出来るとは思いもしなかったのだ。


 ちなみに、ここのオバチャン管理人さんに料金を払ったのはイクちゃんで、しかも2人分をキッチリと請求せいきゅうされてしまった。市の公式ゆるキャラでも、見逃みのがしは無いというのがここの流儀りゅうぎであるらしい。


「アミー、ここはちょっと特殊とくしゅでな。ここでは、下界げかいのことについては聞かない約束になっているのだ。実は役所も、ここの実態じったいについて把握はあくはしておる。ここは居場所が無い者の為のテストケースでもあるのだ」


 さりげなく温泉の湯温ゆおんはかっていたイクちゃんからは、アミーに対してそんなややこしい事情に関する説明があった。


「うちの自治体って、そんなことをしてるんだ……ところで、税金とかここに突っこまれてるのかい? 皆んなから反対意見とか出ないのかな?」


 アミーの疑問は、納税者のうぜいしゃとしてはとうな意見というヤツであった。


「そこは寄付きふなどでまかなわれていたり、ここから出るもうけというのもあるからな。ちなみに私も寄付きふをしている側なのだ。ここの料金をとられたが、それも仕方なしというところなのだ」


 どうやらここは、寄付きふもあれば何かのかせぎもあるということだった。


「とにかく明日も頑張るよ。あと4キロぐらいだろう。全部が下りだから歩き方に気を付けるとして、今一いまいち天安てんあん神社には連絡が行ってるのかな!?」


 アミーとしては、つかれが取れて安心というところだったが、今回の行き先には今日中に到着しているはずだったのだ。少しだけ青い顔になっていた。


「こちらは携帯電話の基地局きちきょくが近くになくても、何処どこにでも電話ぐらいは出来るようになっているのだ。アミー、残り4キロは必死ひっしこいて歩いてもらうのだ」


 イクちゃんこと万魔まんま佞狗でいくからは、そういうきびしい突っこみが飛んできた。







ひどいよ中ボス! そういう範囲攻撃はラスボスが使うモンだろう? 即死判定アリってきびしいよ!」


 翌日の日曜日の朝のこと。アミーは宿泊所の前にあるベンチに座り、目の前の信じがたい光景を黙って見ていた。


 目の前でさわいでいるのは小学生だ。おそらくは10歳か11歳であるように見えた。

 だが、さらにその先にいて、先ほどまであたりに『見えるレーザー光線』のような光をバラまいていたのは、明らかに何かの人工物ではないかという存在だった。


 ソレは、球体のボディに4本の腕と4本の虫のようなあしがついていた。どれも大きくて太く、高さだって10メートルはあるのではないだろうか。

 身体の正面の中ほどから太い首がびており、その先についているのは自動掃除機のような円盤形えんばんがたの頭だ。あつみのある円盤えんばんの側面には(;TДT)という顔がくっついていた。


 小学生が『中ボス』と呼ぶモノは、この異様と言っても良い呑舞どんまいさんにひとつしか存在しない。『おセンチさん』を含めると実は2つなのだがソレは置いておこう。


 アレは『沱稔だみのるさん』だ。当人あてんと教授も探している正体不明の存在である。

 アミーとしては、小学生が夏休みの間であれば、出会う存在そんざいとしてりかな、と思うくらいにフレンドリーな神様だった。






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