主人公

ねくしあ@新作準備中

第5972~6336話

「ふわぁ……」

 

 時刻は早朝、五時半。

 ふと鳥の鳴き声がして、窓を見れば、そこには深い青に染まったガラスが薄い日光に煌めいていた。夏休みという時分、朝は、冬とは比べ物にならないほど早く訪れる。それがなんだか心を焦らせるとともに、希望の朝が来たのだと思えてしまう。


 さて、なぜこんなにも早い時間に起きているかと言えば、それはもちろん日課などではなく、暗い暗い過去を越したからである。無論、それには《オール》というルビを振ることが可能だ。


 その原因というのは、当然現代なのだから青い光を発する板にあるわけで、それはパソコンだとか言われているものだ。見ようと思って見ていなかったアニメを一気見していたら、太陽が僕の顔を覗き見ようと起き上がってきたせいなのだ。全く以てひどいものだと思う。


「課題、やんなきゃなぁ」


 アニメが映るモニターの前には、約1677万色に光る入力装置キーボードがあり、その手前には小難しい数字の並んだ憎き仇敵が居座っている。どかすことは僕の真面目さが許さないので、居候を仕方なく受け入れている。本当ならゴミ箱にでも追い出してしまいたいところだ。できれば家賃も払ってほしい。


「……ちょっとだけ。数問でいいからやろう。そうしたら、またアニメを見よう」


 何らかの賞を受賞してほしいくらいに偉大な行動を起こした僕は、近くにあったシャーペンを手に取り、緊張感のないノックを、礼儀正しく三回やっては数字とにらめっこを始めた。黒い線が動いては止まり、しばらく止まってまた動き出す。遅々たるものだが、僕の脳はパソコンではないため数字の処理には時間がかかるのだ。無慈悲な先生は、そんな僕に赤点をつけようとする。命からがら逃げ出せられないときもある。


 ともかく夏休みというのは、いつもこんなものである。趣味に没頭して、それでもなんとか課題の時間を作り出し、間に合わせる。僕は忘れっぽいので時に提出を忘れることもあるが、きちんと出す。とても偉いのだ。褒めてくれるような彼女などいないが、ともかく偉いと自己暗示をかける。


 そうやって、僕の日常は過ぎていくのだ。


 ◇


「ま、こんなもんかな」


 そう言って俺はキーボードから手を離し、椅子の背もたれに身を任せた。


 ああいう印象的な出来事があったとき、俺は不意にそれを小説っぽく書きたくなってしまう。といっても普段はラノベを書いているから、文学的な文章にするのは難しい。


 俺の国語力と読書経験に丸投げして、どうにか頑張る。

 それが俺のスタイルだ。


「……はぁ……最悪だ。数学やんなきゃ……」


 さっき書き上げたそれは、普通に俺の実体験なのだ。

 アニメ見てたら夜明けてたし、数学の課題はマジで出し忘れている。


 前者は単純に生活リズムの崩れ。後者に関しては、21時に突然寝て起きたら朝で、夏期講習に行かなきゃと焦ってたら提出してないの思い出す——とかいう最悪の流れ。


 やるべきことは後回しにしてはいけない。何度誓っても忘れる。


 ちなみに、タイトルは8月6日にしてある。なぜこの日かと言われれば、俺が友人と万博に行った日だからだ。記念日とも言える。


 そしてタイトルは、「俺と同じ2008年生まれの人の人生の経過日数が話数と同じになる」という風に決めた。AIと計算機を使ってなんとか算出した。前述の通り、俺は数学が嫌いだ。死ぬほど嫌い。赤点スレスレ。


「もういいや、一旦きゅーけー。あのアニメのまだ見てない最新話でも見よっと」


 ——とまぁ、そんな感じで、俺の小説はここで終わろうと思う。


 これで俺が、この小説における主人公になった。終わり方が雑と言われても、人生とはそういう終わり方をするのだから、諦めてほしい。

 

 というかそもそも、強制一人称の小説が人生と呼ばれているのだ。三人称になることはない。時々欲しくなるけど、できないものはできない。

 

 さぁ、君も言おうじゃないか。


 「俺たちは、みんな、小説家だ」

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