第2話
自分の足元から天へ向かって光が差し始めた。
その光は次第に体を包み込み、
自分が光の内側にいることがわかる。
だが、なぜか体が動かない。
この光の中から出なければならない。
そう思った瞬間、
足元から自分の体が徐々に光の粒子へと変わり、
消えていくのを感じた。
それでも残された体から血は流れず、
痛みさえない。
そして、光の粒子がへその辺りまで達した時
それは起こった。
天へ向かって差していた光が、
突如として消えたのだ。
足元から天へ向かっていた光がさしていたが
その光が突然消えたのだ
「え???」
光が消えても、
粒子となって消えた足は元に戻ることはなかった。
気がつくと・・・
へそから上の上半身だけが宙に浮いているような
状態になっていた。
「嘘だろ・・・なんだこれ?」
すると今度は、
地面に自分の影よりも三倍はあろうかという
大きな影が現れた。
その影からは、
完全に怪しい雰囲気になってきた・・・。
「今度はなんだ!?」
残っていた上半身が、
徐々にその影の中へと沈んでいく。
なんとか抵抗したいが、
すでに足を失っているうえ、
体もなぜか動かない。
気がつけば、
胸のあたりまで影に呑み込まれていた。
このままどうせ死ぬのなら、
せめて意識のないまま殺してくれ。
そんな絶望的な思いが頭をよぎる。
やがて影は目の位置まで迫り、
視界が闇に閉ざされた瞬間・・・
意識は、途切れた。
だが、目を開けたはずなのに、
視界は真っ暗のまま。
あれ? 生きてる・・・?
生きてるんだよな?
目を開けた感覚は確かにある。
もしかして、
ただの暗闇の中にいるだけなのか?
それともこれは夢なのか、
現実なのか?
死んだことがないからわからないが、
もしかしてこれが“死”というものなのだろうか・・・。
真っ暗な中で手を動かし、
指を握ったり開いたりして感覚を確かめる。
次に、光の粒子となって消えたはずのへそから下、
足の指の感覚も確かめてみた。
・・・ある。
確かに、感じる。
しばらく
周囲は一向に明るくならない。
時間が経てば目が慣れ、
何かしら見えてくるかと思ったが、
依然として真っ暗なままだった。
・・・もしかして、目が見えなくなったのか?
そう思い、目の前で自分の手を振ってみる。
だが、何も見えない。
そんなことをしていた、その時・・・
突然、声が聞こえた。
いや、正確には
頭の中に、女性の声が流れ込んできた。
〈あ〜〜ごめんね〜〜
今ちょっと忙しくてね〜〜。
あとで使い魔経由で連絡できるようにするから、
とりあえず新しい世界に送るね〜〜〜〉
頭の中に突然流れてきた声の主を探そうとしたが、
周囲は真っ暗で何も見えない。
それどころか、
近くに誰かがいる気配すら感じられなかった。
〈・・・あれ?聞こえてる?〉
また声が響く。
いや、正確には頭の中に流れ込んでくる。
念話のようなものだろうか・・・?
だが、自分にはその使い方がわからない。
考えていても仕方ない。
覚悟を決め、声に出してみることにした。
「聞こえてますけど、
ちょっと待ってもらっていいですか?
そんな間延びしたゆっくりな感じで言われても・・・。
【ちょっとコンビニまで行ってくれる?】
みたいな軽いノリで新しい世界に行け
って言われても困るんですけど」
「お〜〜、聞こえてるみたいだね。
よかった〜〜!
いろいろ聞きたいこともあるとは思うんだけど・・・
ごめんね〜〜。
今ほんとに手が離せないんだよね〜〜〜。
使い魔は黒い猫っぽい感じだから、
新しい世界で黒い猫みたいなのを
見かけたら話しかけてあげてね〜〜」
こちらの言ったことは完全にスルーですか、
そうですか。。。
このままでは絶対にマズい方向へ話を
持っていかれる気がする。
状況的に言っても拒否権があるように思えないが・・・。
なんとかそれをくい止めるために
情報を集めた方がいいよな・・・。
すごく面倒くさそうな奴だけど、諦めるというか、
今は、割り切って話すしかないな・・・。
「猫っぽい?
つまり、猫に声をかければいいんですか?」
新しい世界がどんな場所なのかはわからないけど・・・。
いきなり猫に話しかけるなんて、
かわいい女の子ならまだしも。
16歳の男がやるなら周りに人がいないことを
確実に確認しないとマズいやつじゃん。
「君が新しい世界に降りちゃってから、
私が直接話しかけるのはいろいろマズいんだよね〜〜。
それをごまかすためというか、
まあ・・・使い魔経由なら見つかりにくいって感じかな〜~。
だから、行った先で黒い猫っぽい使い魔を見つけて、
いろいろ聞いてみてくれる?
あ!それとね、
一応前から用意しておいたスキルセットも付けといたから、
たぶんそこそこ大丈夫だと思うんだ~」
本当にお構いなしに、
次から次へと情報を詰め込んでくるな・・・
「スキル?
あ〜、そういう感じの世界なんですね。
一応、ありがとうございます?」
「おっ、なかなか物分かりがいいね〜〜!
そういうの、非常に助かるよ〜」
いやいや、めっちゃ頭フル回転させて、
いろいろ補完してるんですけどね・・・
「使い魔か~使い魔?それって、悪魔の・・・」
「じゃあ! よろしくね。よき旅を!」
「おい! 待て! 使い魔って・・・
というか、普通に話せるんじゃないか!」
しかし、返事は返ってこなかった。
しばらく時間が経ったような気もするし、
一瞬の出来事だったような気もする。
真っ暗な場所で、
時間の感覚がまったくわからない。
声を出しているつもりだが、
いつの間にか声が出なくなってしまった。
もう、新しい世界に送り込まれたのか?
もしそうなら、
そろそろ周りが明るくなってきてもいいはずだよな?
だいたい、こういう異世界転生ものって
目が痛くなるほど眩しい白い部屋で目が覚めて、
そこに神様とか、
美しい女神様が登場するのが定番じゃないのか?
なのに、なんでこんな真っ暗な空間で、
何の説明もなく送り込まれようとしてるんだよ・・・。
よくよく考えたら、
最初に足元から光って・・・
なんだか途中で止まったよね?
あれって普通なのか?
初めての召喚だから普通がわからないけど、
下半身だけ光の粒子になって消えたあと、
わざわざ影みたいなのに
沈み込む必要なんてないよね?
あの声の主怪しすぎるよな・・・
直接話すとまずいとか言ってたし、
女神とかじゃなくて、
使い魔?てことは悪魔じゃないのか?
いやいや、これ絶対まずいパターンだろ。
まさか、
この真っ暗な世界で生きていくことになる・・・
とかないよな?
おーい、誰か~!
って、声に出してるつもりなのに、
出てない。
体も動かないし、
すごく時間が経っているような気がするけど、
不思議とお腹もすかないし、
生理現象もまったくない。
・・・目を閉じて、
起きたら
【夢でした!】
ってならないかな?
そんなことを考えていると、
目は閉じたままなのに、
周りがだんだん明るくなっていくのがわかった。
やっとかよ。
どれだけ待たせるんだよ?
・・・いや、待ったのか?
次第に目を開けられる感覚が戻ってきて、
体の感覚も徐々に蘇ってくる。
そして、意を決して目を開けてみた。
目に映ったのは天井だが、
見覚えのない天井だった。
【起きたら夢でした】
って展開ではなさそうだな。
さらに、周囲に誰かの気配を感じる。
その人物がこちらに近づいてきて、
視界に入るほど覆いかぶさってきた。
何が起こるんだ?
というか、
もうすでにいろいろ起こりすぎて、
お腹いっぱいだよ・・・。
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