AWAKENED 1-3

 あれ?

 いや違う。これ、私の名前じゃない。風菜。誰だろう。女の子みたい。

 女の子、みたい? ってことは男の人? 誰だっけな。知ってる人って気はするんだけれど。ううん。だけど肝心なのは、それより私は?

「妙なとこに来ちゃったな」と私は思う。記憶が心もとないのもこんな場所のせいだ。

 作りかけの世界。色のない世界。あるのは左右の白と、地面の黒と、2つを混ぜ合わせた天井の灰色だけ。ライティング、グラデーション、カラーリング、それから生気。何もかも失った世界。ひたすら現実味に欠いた場所。

 ひとまずアンリアルと名付けておこう。アンリアルの世界。ここを表すのにぴったりだと思う。ま、のちのち使う機会があれば、だけど。

 そして私はもう一度周囲を窺う。場所よりも『人』を見る。

 ここに『人』は多様性の証明ってくらい点在してるけど、私にはやっぱり同じに見える。何度見ても彼らは機械的だし、アンプレイアブルキャラクター的だし、それよりゾンビ的だ。

 ゲームの主人公はすごいな。こんな人たち相手によく気が狂わない。

 だけどこれはゲームじゃない。場所自体は仮想空間だとしても、私は生きている。お腹だってすくし、寝る場所も見つけなきゃ。陽だっていずれ……この空、暮れるのかな? それより今って何時なの?

 とにかく。

 色んなことがごちゃごちゃしてる。だけどこんな場所で考え続けたって意味がない。時間はわからないけれど確実にいえることは時間は止まってくれない。目的があるなら早いとこ攻略に乗り出さなきゃ。

 わかってる。

 そうしなきゃいけないってことはわかってる。

 ああ、今になってだ。

 第一歩が踏み出せない。踏み出したいんだけど、体が動かない。

 戸惑いはなかったし恐怖もなかったし。でもとうとうやってきた。『私は彼らについてゆくべきじゃない』って予感、よりも悪寒のために、足がすくんでる。

 ゾンビさんたち襲ってこないかな、なんて、下らない心配よりも、もっと根深いトコの問題だ。

『私』には目の動きがある。歩き出せばきっと『駅から徒歩五分』とも違う。けど彼らの目的に従ってしまったら、『私』と『人』が同一になってしまう。私も彼らの一部になってしまう。

 こんな人たちと一緒くたにされちゃうの?

 私。彼ら。

 種類は2つに分けときたい。アンリアルの住人。と、私。透明だけど明確で決定的なフィルターを、あいだに一枚挟んでおきたい。

 とはいえ、だよね。

 結局従うしかない。踵を返して流れとは反対に、って先に答えがないことを、もう直感的に理解してしまってる。

 どうせなら目的は自分で発見したかった。それなら私は私の道をゆくだけで、彼らと同じことにはならない。偶然進んでる先が同じだけ。屁理屈だけど心の筋は通る。

 ああ、だから、そっか。そういうことか。

 誰がいいだろう。誰でもいっか。

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