PARADIGM 1
AWAKENED 1-1
◇PARADIGM 1
それでここってどこ?
というか、私、なんでこんなところに居るんだっけ?
見渡す限り見覚えのない街並み。こんなわけのわかんない場所の中心に私は立っている。気づいたら、だ。気づく前はどうなってた? さあ。
戸惑いはないけれど。不思議で奇妙な感覚。
渋谷? とは違う。ブロードウェイ? とも違う。シャンゼリゼ通りとかスペイン広場というのとも違う。けどなんとなくどれにも似てる。先進的だけどちょっと馴染み深いって建物が長い直線の左右にずらっと並んでる。
夢遊病? いや違うんだよな。違うと思うんだよ。そういうんじゃない気がするし、どっちかっていうとそれはどうでもいい。原因よりも事実を受け入れる方が先決だ。
最初は素直に驚いた。バカでかい街並みの迫力に。けどすぐに静まった。すぐっていうのはコンビニの会計くらいの早さで。
だって見張るべきとこがない。白い。道の左右にある何もかもが白く、どこまでも真っ白だから。
アマルフィの海岸線みたいに情緒ある雰囲気だったら、美しくもあった。それに比べるとここは風化の丸みもないし、石造りのあったかい質感もない。どれもこれも角をすとんと切り落とした鋭利な建物、だし、ざらつきのないのっぺりしたテクスチャには誰かを感心させるフレーバーも備わってない。本当にただ白いだけ。小綺麗ではあるけど『整然』ってより『数式』って感じ。
それに――あのビルの名前は? あのお店では何を売ってるんだろう?
文字。あるいはグラフィック。なにかを定義する情報が、この街のどこを探しても存在しない。建物の形からかろうじて「ここは商業オフィス」、「そっちは飲食店」って想像できるけど、まるで作りかけのジオラマみたいな世界。
「ジオラマってより」と私は思う。「素人の作ったメタバースって感じ」
ひとまずガワだけ作った世界。だからどの建物も『内側』が存在しない。建物たちはかなり閉鎖的で排他的だ。アフタヌーンをまったり過ごしたいような、大きな一枚ガラスをはめ込んだカジュアルカフェ、みたいなのは、この街では望めそうにない。
私が踏みしめてるこの地面も、ただ黒いだけ。一級河川くらいの幅の道が、どこまでもまっすぐ、途切れず、坂にもならず、傷もない。ひたすら黒い道がまっすぐ地平線の先まで伸びてる。染みも汚れもないのが、こっちは『清潔』より『のっぺり』。
じゃ、空は? うっすい灰色。太陽、雲、星、月、ややこしい演算に関わる一切が除外されて、塗りつぶしツールでクリックしただけの、面白みのない単一色。
数式。のっぺり。あと除外。
不思議で奇妙で、ちょっと気の狂いそうなニュアンスに包まれてる。おかげで腑に落ちる。これは夢遊病なんかじゃない。問題は私の内面じゃなくて、こっちの『世界』の方にある。
なんだろ。本当に開発中のメタバース? それとも、もしかしてこれで完成形? ディテールまでこだわる前に飽きたんだろか?
よし。
なんなんだここは。
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