いつかの魔法使いつかい。〜Which?Wizard users!夢オチ使いは非現実を創り出す〜
玄花
一夜限りの魔法、それだけでは終わらない──
一人暮らしの女子高生、
一人の少女は蛍光色の街並みに身体を浸す。ひたすらに何かを探すように。特に求めるものはないというのにも関わらず、額に汗をかいて、その青い海のような自転車を漕いで、
空には車が浮かび、自動運転の中、パソコンを開き仕事をするサラリーマン。立体的に現れているかのように感じさせる広告。その広告に映っているのは、人工知能が考えた新作の映画。旅行会社では惑星間旅行の張り紙が堂々と。
今となっては地面の道路を歩くのは野良猫や飼い犬、散歩好き、そんなものくらいになってしまった。17年前までは普通に地面を車が走って、朝は自転車で学校へと登校していただなんて、今の世界の発展した技術から見れば程遠いものだ。想像ができないくらい。未だ自転車登校をしている人間も私と数人の生徒だけ。
学校といえば、来年度から新しい教科が追加されるっていう噂を聞いたような。なんでも魔法だそうだ、科学がここまで発展した今。そんな雲を掴むような話、あるんだか。何年間もサブカルチャーの舞台としてある、異世界の産物、魔法。昔はこの世界にもあったとか言われてるけども。教育目的としては自衛の一貫とか言われているらしい。平和以外を知らない私たちにそんな事をさせても意味は無いのに。噂は噂、所詮作り話。
今時、治安も整備されて、そして管理されて、犯罪件数も圧倒的に減った。平和な世界。そんな世界が当たり前になっている現在。そういう世界であるからこそ、一人の少年は呟く。
「嗚呼、争いの為の平和はいつまで続くのだろうか」
と。ネオンの屋上で忙しそうに空を飛ぶ自動運転車をそっと睨みながら。
一人の少女はその街の道路を自転車で通過する。誰も通らない道路を通り越す。
「あ〜、平和だな〜、今日も噂話ができるくらいには、」
と、口ずさみながら。平穏な現在を進んでいる。未だ来ぬ時へと進んでいく。その先が何でどんな世界が待っていたとしても──
今日もいつものように自転車で、学校へ向かった。遅延も遅刻も寝坊もなく、朝の会の始まる前に自席に座って友人達とおはよう、とか今日の科目日程とか昨日のこととか、を話していた。そして、授業を受けて、休み時間、授業が終われば休み時間。それを繰り返して家に帰る。家に着いたら駐輪場に自転車をおいてマンションに戻る。そして、課題をして洗濯をして夜ご飯。たまに買い物に行ったり、行かなかったり。やる事が全部終わったらいつもの日々から離れる。それが夜の私のサイクリング。
月明かりが太陽の代わりに私たちを焼いている?いや、蒸し暑いから煮ているのか?それでも夜風は心地よくペダルを漕ぐ私の体を通り抜ける。様々な色に光る街並みは、いつも空を照らす太陽とは違う明るさを与えてくれる。ある程度まで漕いだところで私はコンビニに入り、アイスを買う。
そして再び走り出す。本当に夜は心地がいい。昼間はああもルールに縛られ、ギラギラと光に照らされる。でも夜のネオンの光は私を微かに輝かせ、静寂の中にちょっとした興奮を分け与えてくれる。日常の中の非現実だ。
次は街明かりから離れて、少し暗い公園へと向かう。裏では背の高い大きなマンションが星明かりを遮り、代わりに部屋から溢れた生活の光が少しペンキの剥げた灰色のベンチを指す。
私はいつもそこに座ってアイスを食べる。春夏秋冬一貫して季節のアイスを食べる。コンビニで私を待っているアイスを。そして、いつもなら私は包装を開けて、かじりつく。その筈なのにその手と口は動かない。そして目に関してはまさかの明後日の方を向いている。
そう、目の前に何かがいる。黒いもやのようなものが掛かっていてよく見えない。いや違う黒いもやそのものが目の前にいる、何かだ。思わず私はアイスの袋を強く握る。形が崩れてしまった事にも気付かずに恐る恐る後ろに下がる。さっきまでかいていたほんの少しの汗の温度が急激に下がる。
「嬢ちゃん危ないッ!!!」
灰色の髪、右目が青、左目が金のオッドアイ。コスプレ……ではないみたいだ。外国の人かな?イケメ……そうは思ったのも束の間即座に押し飛ばされ、私は地面に体を横にする。
「ったた、、、え?」
急に現れた男の腕は宙を舞った。右腕が一瞬で切り落とされた。ボトっ、とさっきまでついていた腕が地面の上に。遊具の無い小さな暗い公園で、
「あ、ああああ……」
血がダラダラと止まる事なく流れ出る。
「ッ……ぐ、、嬢ちゃん!早く逃げて、ここは危ない!」
「ふ、へ?」
パニックなったまま私は無我夢中に走る、入り口に留めてある青い自転車に乗って走って逃げる。夜のサイクリングの時、私はスマホは持ち合わせていない。それが仇となった。咄嗟に逃げ出してしまったもののあの男の人の事がもう既に心配で心配で仕方がない。マンションの警備システムはどうなってんのよ!!近くに犯罪者がいて今の人工知能が判別できないことなんてないのに!!!あんな危険な何かに人が襲われてるのに、
白、黒、赤の三色を基調とした何処にでもある交番。私は急いでそこに駆け込む。柔和な顔つきをした警官がこちらを向く。
「あ、あのっ!!近くの公園でおにいさんが、おにいさんの腕がっ……」
「腕?切り裂き魔でも今頃出たのか?まあいい、早く連れて行ってもらえるかな、」
こういう時は情緒不安定な人を落ち着かせてから話させるものだが、この交番のおじさんは、目つきが違う。私は震える足で全力でペダルを漕ぐ、
「おにーさん!!!」
暗い街に私の声が響く。
「なッ!?嬢ちゃん逃げろって……」
男の人が私の方向を振り向いた途端、背後の黒いもやがはっきりと刃物の形になって───
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