第18話

クラスメイト達の会話は、聞きたくなければ小説を読んでその世界に没頭した。


一人で過ごす時間はとても気が楽だ。


だけど、ふいに聞こえる春山の声だけは無意識に拾ってしまっていた。


クラスメイト達との他愛のないやり取りや、男子を下の名前で呼ぶ声が耳に飛び込んで来て、胸がヒリヒリする。


嫌な痛みだった。



「矢崎くん、ここの問題教えてくれない?」



理科の苦手な彼女に化学式の問題を教えて欲しいと言われてそれに答えた。


答えながら、なんだよ……とつまらない気持ちが湧く。



「分かったよ!ありがとう矢崎くん」



嬉しそうに笑う春山の笑顔を見て、ほんの少し気分が上昇したのもつかの間、彼女の口から出て来た俺の名前……苗字の方の。


つまらない気持ちの理由は「矢崎くん」と苗字で呼ばれることに苛ついていたんだと、気付いた時は馬鹿馬鹿しくて笑えた。


どうして?なんて聞くこともできない。


けれど、その答えを不本意な形で知ることになる。

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