第8話 2人の春
今までで、1番風が冷たかった
真夜中の街は市街に行く程に静かになっていって
あたし達だけしかいないみたいだった
1番最初に出た時の事が遠い遠い昔に感じた
アキは、キーを刺す時
俺はもういくで
と、言った
あたしもいくよ
最後まで1歩も引かないあたしに、泣きそうな、苦しそうな顔をしたけど
その言葉に何も言わなかった
山道に差し掛かる前、最後のコンビニで飲み物を買って一服した
「アカリ、もう帰れよほんとに」
ぽつりと泣きそうな声でアキは言った
「嫌や、これで最後やろ。あたしもいくよ最後まで。」
煙草の煙が空に溶けてゆく
アキは俯いたままだった
「アカリは春になって卒業して、、」
「いこうよそろそろ、1番綺麗に見えたあそこがいいな」
あたしは遮った
アキはもうなにも言わなかった
凄い速度で走ってゆく
見てえきた、1番街並みが見下ろせる綺麗な場所
「アカリ」
か細い声が聞こえてくる
「いこっ」
加速する
あたしは強く、強く、アキを後ろから抱きしめた
止まらない
止まらない
1番好きだったその場所を、あたし達は飛び越えた
浮遊感
あたしとアキは強く抱き合って
ぶれてゆく視界の中
意識が途切れるまで景色を目に焼き付けた
もう、少し先の春には見れないこの景色を
end
冷たい春 みなみくん @minamikun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます