第41話 タケルが連れ去られた
「司の宮様、大変です~」
「何事です、そんなに慌てて~」
ヒラリは血相を変えて司の執務室に飛び込んで来た。
「タケルが右大臣の手の者に寄って連れて行かれました」
「落ち着いて、詳しく話して見なさい」
「何処から漏れ伝わったのか定かでは有りませんが、タケルの病気が知れてしまった様です」
「それだけの事でですか?」
「いえ、右大臣が好機と捉えて、宮様にゆかりの有るタケルを稀に見ぬ伝染病だと決めつけ、隔離する為に連れ去ったのです」
「ヒラリは黙って手をこまねいて居たのですか」
「黙って居られる筈が無いじゃありませんか。でも、これまでの事も有り、変に歯向かえば宮様が追い詰められはしないかと~」
「分かりました。心配には及びません。どうせ、目当ては私に決まって居ます。事によると、八葉蓮華の小太刀をも狙って居るかも知れません」
「そこまで考えての事でしょうか?」
「二度までも、その力用(りきゆう)を知り得たのですからね。新を呼んでください。状況を調べて貰いますから~」
憂いの晴れぬままヒラリは部屋を出て行った。
しばらくして、新が司の宮の部屋に入って来た。
「ヒラリから話は聞いて居ますね」
「うん、困った事になったね。右大臣の狙いは司だろ。」
「きっとね」
「今度は何をどうするつもりだろうか?」
「煙たい私を実務から遠ざけて、ひな壇に据えて置きたいのでしょう」
「そうなったら、司の隣に僕も座らさせて貰おうかな~」
「冗談を言ってる場合じゃないでしょ。タケルは新の親友で無かったのですか?」
「それほどでも無いけど、こちらに連れて来た僕にも責任が有るし、ちょっくら、探って来ます。それで、僕を呼んだんだろ」
「ええ、お願いします。くれぐれも、気を付けてね」
「あいよ!」
「あっ、新。例の宮廷医の手がかりは掴めまして?」
「やっとこ、見つけ出したよ。後で、面白い話を聞かせてやるから~」
「私の父の事ですよね」
「うん、外に何が有る。右大臣の手の者に見つからない様に散々苦労して来たみたいだ」
新が司の部屋を出ると、ヒラリが待ち構えて居た。
「新、私も一緒に行きます」
「ダメだって言っても、聞かないよね」
「そうだ、あの二人にも手伝って貰おう」
「あの二人って?」
「元々、右大臣の配下だった奴だよ」
「ノベバーとマイキーの事ですね。でも、頼りになるかしら~」
「『餅は餅屋』って言うじゃないか」
「餅がどうかしまして?」
「そうだった。ここは金色世界だもんね」
新はノベバーとマイキーを自分の部屋に呼んだ。
タケルが連れて行かれそうな場所を彼らから聞き出すのであろう。
「宮殿の地下牢かな?」
「ノベバー、それは無いだろう。一度ならずも二度までも破られて仕舞ったんだぜ」
「マイキー、二度って事はどう云う事だい」
「新様、実は昔ね、宮廷医が閉じ込められて居たんです」
「そうだった。あの時も俺たちが牢番をしてた」
「新、どう云う事でしょうか?」
「ヒラリ、これは面白い事に成って来たよ」
「えっ、何がですか?」
「当時から、右大臣に対抗する何者かが居たようだ」
「その何者かが、先帝の死因を知って居た宮廷医を救い出したって事ですか」
「あぁ、きっと、そうだよ。そうなると、タケルは何処に?」
「新様、右大臣の屋敷にも牢が有ります。今度はそこら辺りで無いでしょうか」
「マイキーの言う通りかも知れない。右大臣の屋敷なら君たちは顔が効くだろう?」
「恐らくは~」
ノベバーとマイキーは口を揃えて新に応えた。
斯くして面々は、タケルを救い出すべく右大臣の屋敷に向かった。
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