第35話 先帝の死のについて
ヒラリがタケルと人目を避けて話し合っていた頃、その姉、キラリは別塔の裏口で新に声を掛けて居た。
「新、何処に行くつもり?」
「いや、なに、ちょっとね」
何処となく真剣な眼差しで、辺りを憚(はばか)って目の前を通り過ぎた彼にキラリは不審を抱いたのだろう。
「ちょっと、じゃ、分からないわよ」
「君には関係の無い事だから~」
「そう言われると、却って気に成るものでしょう。まさかとは思うけど、司の宮さまにも内緒で何かしようとしているの?」
「見逃してくれないか。何も悪事を働く訳でも無いんだから」
「あなたが連れて来たタケルとやらを見て居なくていいの、サドも気に掛けて居たでしょ」
「その事はヒラリに頼んであるから~」
「えっ、ヒラリが頼りになるとでも思って居るの?」
「あぁ、ああ見えて君が知らない一面を持っているかもね~」
「な~に、それ。奥歯に物が挟まったような言い方は」
新は内々に調べることを抱えていた。
それは彼の父、忠が突き止めようとしていた事である。
忠はその半ばで右大臣ガボットに捕らえられてしまった。
その後の事は、既に、知れて居るであろう。
考えて見れば、彼一人で出来得る事では無いようだ。
そこで、新は、
「ここではなんだから、僕の部屋で話そう。君が良ければだけどね」
「何か重要な事なのね」
「あぁ、特に司の宮にとってはね」
「分ったわ、宮さまに関わる事と聞かされてはね。その様子だと、一人では手に負えないみたいね」
「悔しいけど、その通りさ」
二人は新の部屋に後戻りした。
「それで~」
「うん。キラリは先の皇帝が亡くなった事について、どう聞かされてる?」
「病死でしょ、それが何か?」
「僕の父親は覚えてるよね」
「そりゃ、もう、地下牢から救ったんだから」
「僕の父親は毒殺だと考えていたらしい」
「まさか?」
「それにさ、後を追うように司の母親も無くなっただろ。それも、若くして~」
「それも、病死だと聞いているわ」
「ほらっ、何か匂わないかい?」
「?言われて見れば~」
「そこでだ・・・」
新はキラリに協力を求めた。
カヤ族の屋敷で、当時、皇帝と司の母親がどの様に密会をしていたかをキラリに探って貰うことにしたのだ。
キラリはそれを引き受けた。
カヤ族の屋敷となれば、勝っても分かっているし、その頃からの使用人も心得ている。それに関しては、キラリは打って付けであった。
二人の間で話が着いた。
新は市井へ、キラリはカヤ族の屋敷に向かった。
真相究明へと突き進みだした二人だったが、司がドア越しに二人の話を立ち聞きして居た事に気付きはしなかった。
「宮さま、どうかなさいましたか?」
サドが執務室でぼんやりして居る司に声を掛けた。
我に戻った司は、
「いえ、なんでも有りません。・・・そうだ、サドは私の母が亡くなった時も屋敷に居ましたよね」
「はい。それはもう、この世から春と言う季節が消え失せたかのように誰もが滅入っっていました」
「そうなの~」
「それがどうかしました?」
「いえ、聞いて見ただけです」
話の序(つい)でなのか、サドの物申したい素振りを見て取った司は、
「何か、話でも~」
「えぇ、大した事では無いのですが、あのタケルという若者が宮殿内で迷子になるかもと申しまして~」
「それで~」
「はい、例の地図を見せたのですが、宜(よろ)しかったでしょうか?」
「新から、彼にはヒラリが伴って居ると聞いてますけど~、まぁ、良いでしょう。それ位のことは~」
「はい」
とは言ったものの、司の胸に微かな影が過(よぎ)った。
新とキラリの話が大事(おおごと)だったので、その思いは途端にかき消されたようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます