第6話 新と司、金色世界に戻る


 新と司は新のアパートに帰り着いた。

 新はドアを開け部屋を見渡すや、


「なんだ、これ!」


 何者かが部屋を荒らして行った痕跡が新の目に飛び込んで来たのである。


「新、どう云う事?」

「さぁな。泥棒の家に泥棒が入ったって事だが、洒落(しゃれ)にも成らないや」

「盗まれた物が有って?」

「さぁな。片付けながら見てみるか」

「それにしても、誰が一体」



 二人が片付けを始めてから暫らくしての事である。


『ピンポーン』


 誰かが訪ねて来た。


「開いてるよ」


 新が声高に応えた。


「新、済まないな」

「守(まもる)、まさか?」

「違うよ。俺じゃない・・とまでは言えないけどな」


 守は新と同業者である。

 共に盗みを働いた事は無かったが、情報交換をする間柄だった。


 守は慣れない手つきで部屋の片づけをして居る司を見て、

「何処の、誰?」

と、新に尋ねた。


 新は咄嗟に、

「親戚の女の子。それより、どう云う事か説明をしてくれないか?」

「あぁ。古物商の銀次に新の部屋を聞かれてな、それで、ここまで連れて来たんだけど、有無を言わさずピッキングでドアを開けさせられて、あらよあらよという間にこの有り様」

「銀次に幾ら貰ったんだ」

「そんな~、眼をつぶってくれよ。なんせ、よってたかって脅されたんだから」

「まぁ、良いや。気に成って戻って来たんだ」

「うん。ダイヤがなんとか言ってたけど」

「そうか、そう云う事か」


 二人の会話を耳にして、司が近寄って来た。


「あの~、新のお友達ですか?」

「お友達!どう云えば良いんだ、新」

「僕が泥棒だとは知ってるから」

「まぁ、そんなとこだけど、ホントに新の親戚なのかな?」

「私の事ですか。新、嘘を言ってはなりません。こちらのことわざに『嘘は、泥棒の始まり』と有るではありませんか」

「守る。何が可笑しんだ?」

「だって、新も俺も、とっくに始まってるもんな」


「司、もういいから、奥に行っててくれないかな」

「又、そんな風に私を無下に扱って。良いこと、むち打ち、水攻め、磔を忘れないでね!」

「ウワオー!・・・こちらは、とある処から来られたカヤ族の姫様であらせられる」

「まさか、別の世界から連れて来たんだ」

「うん。ちょっと、訳ありでな」

「そんな事をして大丈夫なのか?」

「さぁな。今の所はこれと言って変わった事は起きて無いけど」

「起きてるだろ、現にこんな風にな」

「それもそうだけど」


「あの~、守様で良かったかしら。むさ苦しく散らかって居ますけど、お上がりに成りません?」

「いえ、いえ、それには及びません。うっかり、近づいたら何が起きることやら~」

「私がお気に召しませんか?」

「いや、そう云う事で無くて~」

「新、どう云う事?」

「おいおい説明するから」



 新の同業者の守が去り、部屋の片づけもひと段落したようである。


「しん、守様は私を訝(いぶか)って居たようですけど?」

「うん。守は僕が他の世界に行き来して居る事を知っていて、司がそっちの人間だから用心したんだと思う」

「何が気に召さなかったのかしら?」

「誰でもそうなんじゃ無いかな。事情を知って居れば、おいそれと司に近づかないだろう。とかく、自分と違う人種には偏見を持ちがちになるんだよ、きっと」

「語り合い、互いを認識する事が必要なんですね。その上で、私を理解して頂きたいわ」

「それはそうだけど~」



 そうこうしている内に二人はベッドに身を潜めた。

 何も、わざわざベッドにとは考えられるが、眠りに着くことに寄って夢の回廊に至るとなれば、それも致し方ない事では有る。



 司が尋ねた。

「眠れないの?」

「うん」

「お父様の事が気になって?」

「何処に居るんだろうな。見つけようにも顔が分からないし」

「お爺さまが言ってたでしょ。新の耳鳴りがそれを証してよ」

「だと、良いんだけど。あっ、そうだ。キラリたちにあげる物は?」

「新から借り受けたバッグに仕舞って有ります」

「なら、いいや。手ぶらで帰ったらヒラリはともかく、キラリに睨まれそうな気がする」

「まぁ、そんな事はなくてよ。キラリは好みがハッキリとしているだけですから~」

「???。僕が嫌われてるって事?」

「キラリは強くて逞しい男性が好みなの。それで言うと、新は些か物足りないのでしょう」

「そうなんだ」




「まだ、眠くならない?」

「うん」

「なら、子守り唄を歌ってあげます」

「司の世界の?」

「いえ、シューベルトでは如何(いかが)?」

「それも図書館で覚えたの?」

「ええ、新が居眠りしている間にCDをお借りしてね」

「じゃぁ、お願いしようかな。それと~」

「それとなに?」

「司の胸に顔を寄せても良いかな?」

「あぁ、そう云う事ですね。赤ん坊が母親の心音を聞きつつ眠りに落ちる事と同じですね。良いわよ」


 新は身体を捩(よじ)り、司の胸に顔を預けた。

と、その時の事で有る。

 司の手にこんもりとしたものが触れたようだ。


「新、大変!股間が腫れていますよ!どうした事かしら?」


 新はと言うと、

『眠れない理由を知られちゃった』


「ほんとだね」

「冷やさないとね。ちょっと、待ってて」


 ベッドから起き上がろうとした司を新は呼び止めた。


「このままで良いから」

「だって、こんなに~」

「司が、手でなでなでしてくれたら収まる筈だから」

「???・・・よく分かりませんが、その様にすれば良いんですね」

「うん」

「こうすれば良いのかしら?」

「そう、そんな風に・・・」

「新、新ってば!・・・眠っちゃった。置いてきぼりは嫌だから、私も~」

 




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