第5話 初依頼の報告
フェン大樹海から帰ってきたヴィナは、依頼の達成報告と人攫いの根城の報告をするためにギルドの扉へ手をかけた。
中身がパンパンに詰まった麻袋を背負いながら依頼の達成報告をするための窓口へ向かう幸い空いており待つことなく報告ができる。
「依頼の達成報告と人攫いの根城を報告しに来た。」とヴィナが言う。
「かしこまりました。依頼達成報告と人攫いの根城報告ですね。...え!?人攫い!?」
受付嬢はヴィナの淡々とした言い方に一度見逃しそうになったが、辛うじて事態に気づき呆気に取られながらも直ぐメモを取り出し筆を走らせた。
「フェン大樹海の浅域で一際大きい大木の洞にあって奥に続いてそうだった。人数は最低でも三人」という風に淡々と分かったことを羅列する。
それを凄まじい速さで書き留めた受け付け嬢は書き終え、依頼書を認めていく。
ヴィナは其の鮮やかな手腕に感心しながら採取依頼の達成報告のため担いでいた麻袋をどうにかカウンターへと置く。その麻袋の満杯具合に驚きながら受け取った。「この量をよく持ってきてくださいましたね。初めての依頼でこれ程の量を持ち込まれる方はいません。素晴らしいです。シメリソウは火傷、裂傷等で使う機会が多く、何時も不足気味なので助かりました。この調子で行けば1週間でランク0からランク1へ昇級出来そうです。この調子で頑張ってくださいね!!」
どうやら直ぐに昇級出来そうであり、この儘頑張ろうと、意を決するヴィナであった。
「今回の報酬は薬草1輪につき、銅貨1枚と銅板四枚です。全部で117輪となっておりますので、銀貨2枚と銅貨79枚銅板8枚です。」
「有難う。」
カウンターの上に置かれたお金をカウンターの縁に肘で全体重を支え、巾着にお金を入れる。
そして軽くお辞儀を受付嬢にしてギルドを出て大通りに出る。朝市も割と人が居たが夕方の方が人が多い。人がごった返し、進みが遅い。依頼から帰った冒険者や、夕飯や朝飯の材料を買いに来た主婦、人の隙間を棒を持って楽しそうに追いかけっこしている子供たち、実に平和だ。視線を露店へと向けると、八百屋、肉屋、干物屋、掘り出し物を売る商人、魔道具と魔石を売る商人、美味しそうな匂いを漂わせるこの街名物の猪の肉漬けダレと多種多様である。
中でもヴィナの興味を引いたのが魔道具と魔具、魔石であった。魔道具は魔法陣が刻み込まれた道具で、例えば火の初級魔法のファイアトーチの魔法陣を刻むと使用した時に魔法陣に込められた魔力により自動的にファイアトーチが使えるようになる。要するに魔力がなくても魔法を発動できるのだ。
もし魔力が切れた場合には誰かが魔力を流し込むか魔石を使うと回復する。魔石は自然に魔力が圧縮された物や魔物の体内にできる物がある。魔石にはランクと属性がありランク1から5まである。このランクの決め手は内包する魔力量が大きいほど、大きさが大きいほど、形が丸いほど良くなる。属性はその土地の気候や魔物ごとに異なる。ヴィナの村には祭事や儀式用の魔道具しか置いてなかった為新鮮なようだ。家の中や街、洞窟の中など幅広く使える灯りの魔道具。焚き火や家のキッチンで用いられる、火熾しの魔道具、髪や体を乾かす微風の魔道具、目眩まし用の小粒の様な光の魔道具(使い捨て)等など様々な魔道具を見ていく。その後宿への道すがらに明日の依頼を何にしようかと考える。ベッツ草原か、はたまたフェン大樹海か。ベッツ草原ではワジソウ等の薬草採取や低ランクの魔物討伐。フェン大樹海は様々な依頼があるが殆ど危険な魔物討伐や大樹海の調査である。そして大樹海の殆どが未開拓であるため、野盗などの隠れ蓑となっている。それこそヴィナの見つけた人攫いがいい例だ。リスクを考えるとベッツ草原の方が、リターンを考えるとフェン大樹海の方が良い。ヴィナはそろそろ来る師匠を紹介してもらい、教えを請う予定である為、余り怪我をしない方が良いと判断し明日は、ベッツ草原の依頼を熟そうと考えた。
宿についた後は、食堂で晩飯を食べ体を清めて明日に備えて装備を点検した後に就寝した。
―――――カキィン、カキィィィンと鉄と鉄が鈍くぶつかり合う音がする。目を覚ますと目を瞠るほどの美貌を持ちある種の儚ささえも感じさせる美女と月の輝きを想起させる美しく洗練された刀身と絢爛な装飾を施された持ち手や鍔がある剣を用いて流麗な剣筋で攻め立てている。方や薄汚れた襤褸と下駄を履き、少しボサッとした黒髪の長髪の少し線の細い女性で2尺4寸5分の直刀で刀身は深紅色で飾り気はないがそれでも侘び寂びと言おうかどこか引き込まれる様な魅力を深々とたたえている。彼女は柳のように柔らかく撓って必要最小限の動きで流麗で苛烈な攻撃を上手く受け流している。
ヴィナはその芸術とも言うべき剣舞を食い入るように見ている。彼女らの一挙手一投足を見逃さないように。彼女らは星空の下自分たちの剣を見せつけるように泰然と笑い合いながら剣を振るっている。
盈月のヴィナ 多々羅 @yuzukiti5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。盈月のヴィナの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます