第5話
その日、私が家に帰ると秀の部屋にゆきくんが遊びに来ていた。
あ、言い忘れてたけどゆきくんと私は隣の家に住んでいて、すっごく小さい頃から仲良くしてる。
だからゆきくんは私の兄の秀と親友です。
「ゆきくん!」
私は秀の部屋をノックして思いっ切り扉を開けた。
「うぜーのが来た……」
秀はため息をついて私を睨む。
「蘭ちゃん。お帰りなさい」
ゆきくんがキラキラと私に手を振った。
あぁ……!かっこいい……!
なんで秀なんかと仲良くしてあげてんだろ?!
どんだけ優しいんだ!
「ゆきくーん!」
想いが溢れて抱き着くと秀が舌打ちをする。
「でてけよ、バカ蘭」
「言われなくても出て行きますー」
そして私はゆきくんの手を握った。
「ゆきくん、宿題教えて?」
これは本音。
ゆきくん、超天才だし!
「あ、良いよ。じゃ、秀。またな」
そしてゆきくんは私の部屋に入ってくる。
意識したことなかったけど……。
私っていつもこんなに狭い部屋で、ゆきくんと二人きりだったんだ……。
「何の宿題?」
ゆきくんの声が部屋に響いて。
「あ、すーがく!
数Ⅰが全然分からなくて、今日も先生に呆れられちゃった……」
パラパラーって私のノートをめくって「あー、ここか」ってかっこよく言った。
「よし、じゃあ一問目から解こうか」
ゆきくんっていっつも、こんな近くで私に勉強を教えてくれてるのか……。
「χをこれに置き換えて……」
ゆきくんって指とかすごい男らしいな……。
「そしたらαが出るから……」
腕とか筋肉、超ついてるし……。
ってゆうか!超、かっこいい!
「あのさ……、ゆきくん」
私が見上げると「どうしたの??」と、優しく聞いてくれた。
「やっぱり難しい?
公式まで戻って考える?」
「チューして?」
静かに真剣に言うとゆきくんは一瞬静止する。
だけどしばらくして、すぐ笑った。
「今は勉強中でしょ?
こっちに集中しようか」
そして教科書を前に戻して蛍光ペンを引く。
「この公式は頑張って覚えてね」
「……ゆきくん。
なんで最近チューしてくれないの?」
「αとβが出てきて少し分かりづらくなるけど、千葉先生のテストなら応用は大して出な-」
わざと無視するゆきくんの唇に唇で触れた。
「……蘭ちゃん?」
「αとかβとかよく分かんない!」
私はゆきくんの手から教科書を奪い取る。
「うん、だから今、教えて-」
そう言ったゆきくんの唇に、もう一度触れようとしたら。
「蘭ちゃん」
肩を押して私を制した。
「宿題やるよ」
「だって……」
「宿題、やるよ」
「やだっ!」
私が下を向くとゆきくんはため息をつく。
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